clapping

□ハロウィンシリーズ
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【呪いの獣のお話】










孤独な心を震わせて。

遠吠えを一つ、高らかにしてみる。

まだ見ぬ君に聞こえるように。










「遅くなったな…それでも終電に間に合っただけマシか。」

秋の夜の寒さは、どこか人恋しくさせる。

ただ、一緒に帰る相手もいない、タクシーに乗る気にもなれない、そんな今の私には、一人の夜道が似合っている気がした。

自販機で温かいカフェオレを買って、綺麗な満月を眺めながらのんびりと歩く。

この調子なら、十分程度歩けば家に着くだろう。

バスタブにお湯を張って冷えた身体を温めようとか、眠る前に漫画でも読もうかなとか。

そういうささやかな楽しみを目の前にして、浮かれていて。



家の近くの公園まで来たときに、とうとう幻覚まで見えだしたのだと思った。





こんな夜遅くに、全力でブランコを漕いでいる人がいる。

背格好からすれば大人で、困ったことに耳と尻尾がある状態で。





何の仮装だろう、というか何のプレイだろうとしばらくの間まじまじと見つめてしまう。

視線に気づいたのか、ざざっと音を立ててブランコを止め、その人は振り向いた。

暗くて顔がよく見えない。

そして、夜道に女一人というシチュエーションをこれほど悔やんだことはない。

さりげなく後ずさりして、走り出す準備を心の中でする。

その人に背中を向けて、カウントダウンをする前に。





「逃げるなんて卑怯でさァ、俺はまだアンタに何もしてやせんぜ?」





そう言われ振り向けば、目の前にはどこかあどけなさの残る男の人が立っていた。

雰囲気からすれば、男の人と男の子の間くらいの年頃に見える。

顔立ちは普通に見かけたならじろじろと見てしまいそうなほど、綺麗で整っていた。

どうやってこの僅かな時間で、あのブランコからここまで距離を縮められるのだろう。

そういう疑問は全てお見通しだとでも言いたげに、その人は溜息をつく。



「あんまりそうやって頭でばっかり考えてると、頭悪くなりやすぜィ?」

「…だって怪しいじゃないですか。しかも、まだってことはこれから、」



感じたままに話せば、その人はうっすらと笑みを浮かべた。



「ま、そう言われるのはしょうがないとして、アンタは素直じゃないでさァ。」

「…何がですか?」

「俺を見て怖いと思ったなら、そう言えばいいと思いやす。」

「それは、」



その人の耳と尻尾は、心なしか勢いがなくなってきている。

オオカミのような耳と尻尾は、暗闇にこそ紛れるけど、太陽の下では単なる異質なモノにしか見えないかもしれない。

その異質なモノに触れてみたい。

どうしてだか、急にそう思った。

この人の紅い目が、そう促した気がする。



「…触ってもいいですか?」

「どーぞ。」



少し背伸びをして、耳に触ってみた。

毛は硬めで針のようにちくちくしたけど、その毛並みは想像以上に滑らかだ。



「こんな夜中に…帰るところはあるんですか?」

「さァ、それは初対面のアンタには言えないところ。」



軽くはぐらかされたけど、耳の先端の冷たさがどうしても気になって。



「今晩だけ、ウチに泊まります?」

変なことしたら叩き出しますけど、と付け加えれば

「あー、ホント素直じゃない女。」

呆れたように返され、思わず苛々しそうになる。



「あの、」

「俺はアンタを待ってやした。ここで、ずっと。」



その人は、私の髪の毛を手で掻き上げた。

よく見たら、爪も長くて変な色をしている。



「アンタは?」

「…私、は」



本当に全部が変だ。

こんな夜の濃い空気に飲み込まれそうになっている私の思考も。





「…素直になるまで、問い詰めてやりまさァ。」

「家、知ってるんですか?」

私の手を引き歩き出したその人に慌てて問えば、

「知らないですぜ。ちゃんと家に帰りたかったら、アンタがしっかり歩いてくだせィ。」

その人は少し意地悪そうな顔をしながらも、愉快だと言わんばかりに笑った。





その笑顔が、予想していたよりもずっと無邪気だった。





「…今夜だけですよ。」





ああ、これは、本当に。



私が素直になれていないだけなのかもしれない。










Fin


   

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