アゲハ蝶

□Stop Standing There
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松平さんにプー助を預けて、沖田さんといつも通り見廻りに出かける。

沖田さんと見廻り当番になったときは、少し緊張して、どこか安心して。

掴みにくい、ふわふわした不思議な気持ちになった。







日差しは強く、何事もなさそうな町並みにうっすら陽炎が走る。

自分も沖田さんも上着を脱いで、白いワイシャツの袖はまくり上げていた。

「今日も暑くて、平和そうですね」

「平和すぎて溶けそうですぜィ、ほら」

歩きながら手渡されるのは、オレンジのアイスキャンデー。

沖田さんはいつもグレープ味だ。

「ありがとうございます、いつもすみません」

口にすれば、アイスキャンデーのひやりとした感触が喉を潤す。

「凛も同罪にしないと。全く、チューペットとかそんなんばっかり食っちまいまさァ」

沖田さんは悪態をつきながら、さりげなく優しくしてくれる。

真選組には、そんな隊士さんが多い。

多分仲間意識ってやつだよ、と山崎さんが教えてくれたことがあって。

ちょっぴり羨ましい気持ちになったのを思い出した。







そういえば最近、沖田さんはごはんをあまり食べていないような気がする。

もしかしたら、夏バテ気味なのかもしれない。

「ちゃんとごはんも食べなきゃダメですよ?」

遠慮しがちにだけど、そう問いかけてみれば。

「…暑い中、凛はメシ食う気によくなりやすね」

心なしか、元気がない気がする返事が返ってきた。

「自分だって、ごはん食べるのしんどいです。…でも、生きていかないと」

変なことを言ったつもりはなかったけど、沖田さんは一瞬固まってしまう。

「…生きていかないと、か」

そして、あの目をした。

寂しそうに何かを思う目を。

「…あの、何か作りましょうか」

「あ?」

「自分が何か作りますから。暑くても食べられるもの」

「玉子焼き以外は作れないって、ザキから聞いてまさァ」

「りんごは剥けるようになりました!山崎さんに、また教えてもらいます。だから、」

「何でィ」

「…だから、一人で寂しくならないでください」

ああ、言葉がおかしい。

思ったままのことを急いで伝えると、どうしても変な話し方になってしまう。

直さなきゃ。

そう思いながら、きっと言い返してくるであろう沖田さんの言葉を待つ。

アイスキャンデーを見つめたまま、下を向く。

沖田さんは、何も言わない。

代わりにアイスキャンデーを齧る、しゃくっという冷たい音だけが響いた。

「…凛はよく見てやすね」

予想していなかった言葉。

沖田さんをちらりと見上げれば、寂しそうな、でもどこかほっとしたような目をしていて。

「…えっと、なんとなくです。違ったらごめんなさい」

出しゃばってしまったかもしれない、と心配すれば。

「大丈夫でさァ。冷やし中華か素麺で、ってザキにリクエストしてくだせィ」

「冷やし中華か素麺…わかりました、頑張ります」

「素麺なんか、何も頑張るところはないでさァ。凛は面白いですねィ」

沖田さんは屈託なく、笑う。





よかった。

笑えるなら、きっと大丈夫なんだろう。

(そうかな?)

何が?


(笑えたら大丈夫で、泣いたら大丈夫じゃない?)

違うの?


(大丈夫じゃなくても笑っていたのは、君だよ)

…知らないよ、そんなこと。


(それに、泣かないから辛くない、なんてことはない)


そうなのかな。










(涙が出なくても、辛いことは沢山あるよ)


   
  
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