アゲハ蝶

□Runaway
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屯所の入口まで来ると、そこにはあのひとがいた。

「あ…」

銀色のふわふわした髪に着流し、木刀にブーツ。

夕立の日に、傘を渡したひとが門の前に立っている。

「おー、来るの遅くなって悪かったな。これ、この前の傘。助かったわ」

手渡された傘は、綺麗にたたまれていた。

「わざわざ届けてくれたんですか…?」

「新しい傘、いいじゃねぇか。大切にしろよ」

笑いながら揺れる銀色の髪が、目にちかちかして。

やっぱり、青空が似合ってる。

「あの」

「ん?」

「ありがとうございます、届けてくれて」

「当たり前だろー。あんた名前は?」

「北條凛です」

「俺は坂田銀時、銀さんって呼んで。そっちは凛でいいか?」

「はい」

「じゃ、凛。今から出かけるぞ」

唐突な話。

「でも、仕事が…」

「そんなん適当に理由つけてサボるモンなの。傘置いて早く来な」

強引じゃないけど有無を言わさない、その感じ。

嫌な感じではなく、ただ飄々としていて。

気がつけば、頷いてしまう自分がいた。

「行ってきなせェ」

「沖田さん」

後ろを振り向けば、いつの間にか沖田さんがいる。

「近藤さんと土方さんには俺から伝えときまさァ」

そう言って、自分から傘を取り上げた。

「たまには息抜きってのを教えてやってくだせェ、ソイツ真面目でしょーがないんで」

「万年息抜きの銀さんに任せときな、ほら」

そっと原付の後部座席に座れば、無造作にヘルメットをかぶせられてしまう。

「俺につかまって、腰のあたり」

「…っ、はい」

言われるがままにぎゅっと抱きしめれば、

「離すんじゃねぇぞー?」

そのまま勢いよく急発進した。










夏の午後、太陽が眩しくて光が肌をちくちくと焼くのを感じながら、二人ぼっちで外の世界へ飛び出していく。








   
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