アゲハ蝶
□Prologue
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〜蝶が、舞う〜
吐息が響く中、夜の街を歩き続ける。
まるで蝶のようにひらひらと、彷徨うような足取りで。
行くあてもなく、ただ逃げ出してきた。
何に追われているのかは、考えないようにしながら。
断片的に見えたのは、自分の姿。
女物の黒い着物に施されているのは、品のいい金糸で縫われた蝶の刺繍。
髪は肩より上で、夜風に靡く。
手足には無数の切り傷。
とにかく疲れていて、眠りたくて、どうしようもなくて。
やがて足を引きずりながら歩くようになり、ついに地べたへ倒れ込んでしまった。
汗と血と泥に塗れ、もう動く気にもならない。
ぼんやり霞みがかる視界を、ゆっくり閉じて。
闇が、視える。
「…こんなになってまでどうしたいのかな」
結局何もできないくせに、と掠れ声で自問自答して。
しゃら、と音を立てたのは胸元のネックレス。
小指の爪ほどの大きさの、涙形をした蒼い石が先端に光っている。
「…これは、」
なぜこんな物を身につけているのかもわからない。
時間をかけて、確実に途切れゆく思考回路。
その最後で、夏の月に照らされながら、何かが小さく音を奏でた。