アゲハ蝶

□Runaway
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煙草の煙を、今日はいつもより多めに吸った気がする。

隣に北條がうろついていない分、心おきなく煙草を吸えた。

舌をざらつかせる苦みと、肺までくすぶるような煙。

不規則な仕事をしていればどうしても口元手元が寂しくなり、何本も立て続けに吸うこともある。

だが、北條が副長補佐になってからは、時々気を使って本数を減らしたりしていた。

もっとも、北條は煙草を吸いこそしないが、時折懐かしそうな顔をして煙を吸い込むことがある。

身体に悪いと、愛煙家の俺が止めることもあったくらいだ。

俺の気配と煙草の匂いを感じているであろう北條の姿は、今朝までと比べてどことなく違っていた。



「遅かったな」

「土方さん、今日は申し訳ありませんでした」

丁寧に、しっかりとした口調で話す北條。

コイツのことだ、開口一番に謝られると言い返しにくくなると悟っているわけでもないだろう。

「総悟から話は聞いた。北條は今まで殆ど休みなく働いてたし、一日くらい休んでも問題ない。息抜きはできたか?」

「はい」

屈託なく笑う顔は、荷が下りたような顔つきになっている。

「明日からまた、仕事を頼む」

「土方さん」

「どうした?」

「…何でもないです。明日から頑張ります」

「上等だ。ところで今日は何をしていたんだ?」

凛がしたいことをすればいい。

本気でそう思っていたし、それはこれからもそうだと思っていた。

「銀さんとパフェを食べて、二人で海に行きました。この前の傘のお礼だ、って誘ってくれたので」

この言葉を聞くまでは。

「銀さん…ってアイツか!」

「あいつ?」

「銀色に腐った天パ野郎!」

「腐ってないですよ?」

「つーかこの前傘貸したってのは…」

「銀さんに貸したんです」

「…あんまり悪い遊びを覚えるんじゃねーぞ」

「銀さんはいいひとですよ?舐めてくれましたし」

「なめ…っ」

「溶けたアイスが手についちゃって」

北條はごく自然に、天パのことを話し続けている。

ああ、もう。

なんでコイツはこうなのか、あの天パはああなのか。

「あの…どうかしましたか、土方さん」

悶々と考えれば、何もわかってなさそうな北條が俺の顔を覗き込んだ。





北條をいつまでも俺の傍に置いておけない。

それは重々承知している。

コイツだっていつか、傷ついた身体を癒やして外に出ていく日が来るのだ。

それはきっと、めでたいことに違いない。

そう思う反面、何故か虚しい気分になってしまう。





心のどこかに穴が空いたような、隙間風の入る感覚を味わいながら、俺は煙草をもみ消した。









  
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