アゲハ蝶
□Runaway
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停留所よりもさらに遠くの、砂浜。
波音が響いて、人の気配はなくて。
二人で浜辺に座りこむと、銀さんは途中で寄ったコンビニの袋をガサガサと漁り、アイスを手渡してくれた。
「これはソーダ味に限るよなー」
冷たい空色のアイスは、銀さんに馴染む色。
噛めばしゃりっと音を立て、蒼い雫がぽたぽたと砂浜に染み込む。
「冷たいね」
思ったままの声と
「ああ」
絶妙な距離感の返事。
そのまましゃくしゃくと噛み音を立てて、無心に食べ続ける。
瑞々しさが自分の喉を潤す感触。
夕日は沈みかけて、空は紫色になびいていた。
「世界が終わるときは、こういう感じなのかな」
「やたら哲学的な話じゃねーか」
「自分の世界は、一回終わったから」
笑いながら呟くと、銀さんはじっとこっちを見ている。
「へぇ」
短い相槌、静かな息遣い。
それでも怖くないのは、銀さんの人柄だろうか。
「…自分には、昔の記憶がないの。覚えてることもあるけど、もしかしたら全部は思い出せないままかもしれないんだって」
いざ話し始めれば自分自身のことなのに、ひどく他人事に感じる。
銀さんは何も言わずに、アイスを食べ進めていた。
「だから家とか家族とかもわからないし、どこに行けばいいのかわからなくて。目が覚めたら屯所にいて、土方さんがいて、ほっとして…そこからなんだ」
段々思い出してくる。
拾われて、目が覚めて。
土方さんの寝顔が綺麗だったこと。
世界が生きていたこと。
「で?」
「うまく言えないけど、時々屯所にいていいのかわからなくなる…いたところに帰らなくていいのかなって思うよ」
「…そうか」
「満月の夜、土方さんは公園で自分を拾ったんだって」
それは、沖田さんから聞いた話。
「刀を持ってるから調べなきゃいけなくて…結局屯所にいてもいいって言ってくれて。あんまり役に立たないけど、お仕事もさせてくれて」
「…あのマヨラーが、ね」
銀さんは相変わらず淡々としている。
隙だらけなのに、嘘はつけない。
「拾われたときは怪我をしてたから可哀想って思ってくれたのかもしれない。でも怪我が治ったら、屯所を出ていかなくちゃいけないよね…?」
(君の価値が問われているよ)