アゲハ蝶

□Runaway
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着いたところは、ガラス張りの綺麗な喫茶店だった。

ひんやりした店内に入って、奥の席に通される。

銀さんはさりげなく壁側の席に自分を座らせて、チョコレートパフェを二つ頼んでくれた。

「ここのパフェ、最高だから。暑いから宇治金時もいいかと思ったけど、それはまた今度な」

「銀さんは、自分の知らないものを沢山知ってるね」

敬語じゃないと間の抜けた話し方しかできない自分を、このひとは咎めない。

「ま、銀さんもそれなりに大人なんで。心はいつまでも少年だし、ジャンプは永遠の愛読書だけど」

さらさらと水が流れるみたいに話が弾む。

考え込まないで素直に話せるせいか、当然頭も痛まない。

「凛は真選組で働いてんの?」

「そうだよ」

「へー、多串君のことだから、女はダメとか古典的なこと言ってるのかと思ってたわ。あいつも一応男なんだな」

軽く頷くと、銀さんは冷やかすような声で笑う。

「多串君って?」

「ああ、マヨラーの副長」

「土方さんのこと?」

「そんな名前だっけ。とにかく、多串くんがそんなにユルいなんて意外だわ。…っと」

銀さんは運ばれてきたチョコレートパフェを受け取り、自分の前に置いてくれた。

「食ってみて」

「…いただきます」

両手を合わせて、スプーンを持って。

バニラアイスとチョコレートアイス、生クリームを一緒にすくうよう、銀さんに目で促されて。

一口で頬張れば、冷たいものが舌先にじわりと広がる。

「…甘くておいしい」

思わず顔がほころんでしまうと、銀さんは自分を見て笑った。

「な、やっぱり人生は糖分だろ」

銀さんはチョコレートソースがたっぷりかかったバナナと生クリーム、チョコレートアイスをどんどん食べ進めていく。

「ここで涼んで、陽が落ちてきたら海だな。で、ガリガリ君ソーダ味を食べる」

「銀さんは、おいしいものを食べるのが好き?」

「好き。うまいモン食うって、生きてる感じがするじゃねーか」

「うん…おいしいものを食べると、元気になるよね」





(おいしいごはん、か)

誰かと一緒にごはんを食べるのは元気が出るよって教えてくれたのは、誰だっけ?

(…それは自力で思い出しなよ)

そうだね、きっと大切なことだから。

(君の大切なひとが、そう教えてくれたからね)

大切なひと。

(君の大切なひとは、あのひと)

あのひとって、誰だろう。





少しの間食べるのをやめて、左手でしゃらしゃらとネックレスをさりげなく触る。

「溶けちまうぞー」

銀さんの視線を追うと、目の前のアイスは溶け始めていて、チョコレートソースやチョコクランチと混ざり合っていた。

それを再び口にする。

「溶けかけもおいしい」

スプーンでアイスをすくいながら答えれば、銀さんは優しい顔をしてくれた。







甘い匂いの銀さんと、甘いチョコレートパフェ、溶けかけたアイスに混ざり合う気持ちは、自分を遠くに連れて行ってくれる。









     
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