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□冷却恋愛
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「それ」を初めて見た時は、興奮と欲情、その二つが混ざり合って濁液となった。
声を紡がない口、生気を感じさせない瞳、1つしかない表情のパターン、異常なまでに白い肌、身に纏う儚い空気、何もかもが「理想的」だった。
ただ1つ、1つだけ、不満に思うことがあったが、それはまあおいおいと考え緑間は「それ」を手に入れるべく行動した。
そして、念願は叶い、緑間と「それ」は交際という形になった。






「緑間君、これ、なんですか?」
「医学書なのだよ」

緑間が「それ」を部屋に招いた時。読書が趣味だった緑間と「それ」は、お互いに本を提供して読みふけっていた。
そんな時、緑間の本棚で、「それ」が1つの本を手に取った。

「医学書…?緑間君、お医者さんに興味があるんですか?」
「将来はまだ決めていないが、知識として知っておくには無駄ではないだろう」
「知識ですか…応急処置とかなら分かりますけど、これかなり本格的なやつじゃありませか。解剖例とかもたくさん載ってるし…人の死体だって…」
「そんなもの気にしていたら読めないだろう。殺人事件のファイルを読んでいるわけでもあるまいし」

緑間が心から欲しいのは、本当はそっちなのだが。そんなものが売っているわけもなく、緑間はこれを欲望のはけ口としている。
そんなことを知るよしもない「それ」は、医学書を本棚に戻し、読書を再開した。




放課後の図書室でのことだった。珍しく部活が休みになったため、その休みを有効活用するべく緑間と「それ」は図書室に来ていた。
またもや本を読み始める緑間と「それ」。オレンジ色に染まって埃が舞う空間に、二つの吐息だけが音を紡ぐ。

パタン、と乾いた音が響いた。どうやら緑間が何冊目かの本を読み終えたらしい。
もうすっかり窓の外は暗くなっていて、そろそろ帰らないと学校の最終下校時間も過ぎてしまう。「それ」に声をかけようと緑間が正面を向くと。
すうすうと規則正しい呼吸音を発していた。その横には、大量の本が重ねられている。

「寝た、か」

ため息を一つついて、「それ」に手を伸ばす。その水色の髪を撫でてみるが、一向に起きる気配はない。
まるで死体だ、と思う。
ざわりと、己の中の欲望がうめいた。
その長い睫に飾られた瞼が、開かなくなる瞬間は来るのだろうか。その息も、心臓も、身体の自由も、すべて、すべて奪えたら。
舌なめずりをしながら、緑間は獣を隠すようにやさしい手つきで「それ」に触れた。もぞりとうごめいて、「それ」は目を開けた。

「あ、すいません、緑間君…僕、眠っちゃいましたか?」
「ああ、ぐっすりとな」
「今、帰る支度しますね」

ばたばたと、荷物を鞄の中に無造作に詰め込んでいく。
緑間が手を差し出すと、「それ」は少し恥ずかしそうに手を重ねた。その手は、ぬくもりをまとっていた。

「…お前の手は温かいな」
「は?」
「は、とはなんだ」
「いや、何か緑間君がそんなこと言うの意外で………。君の手も、温かいですよ?」
「そうか」

帰り道に、2人の影が出来る。



「みどりま、くんッッ!!!!」



トラックのクラクションが響き渡る。ぐちゃりとぬるい音が支配する。タイヤに赤がまとわりつく。つながれてた影は1つになった。
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