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□世界はそれを、
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学校内や部活で努力家として通っている宮地清志は、そのプライベートも余念ない。今もバスケの試合などで遅れを取ってしまった勉強を取り戻すために、市内の図書館で課題の国語のレポートを取り組んでいた。
成績は決して悪くない宮地だが、どちらかというと理数が得意な宮地にとって、正直国語の、しかも文学作品の考証は予想以上に手間取った。
頭を抱えていると、ここは図書館だったことを思い出す。本をそのまま写すのはタブーであるが、参考資料とすれば問題ないだろう。宮地は立ち上がり、文学コーナーへと足を向けた。
とりあえず夏目漱石や芥川龍之介らへんでも漁ってみるか、とアバウトすぎる考えで普段は出向かないそこに着く。宮地は本を読まないわけではないが、せいぜい読むとすればそれは話題で皆が読んでいて便乗するものか、趣味であるアイドルのエッセイといったものだった。
どう探っていいのかもわからず、聞き覚えがあるだけの文豪達の棚を一瞥しながら進めば、

「わっ」

人にぶつかってしまった。どうやら本を持って移動していたらしく、バサバサとそれなりに量のあった本が乾いた音を立てる。
しかし、一番驚いたのはその人物ではなく、宮地の方だった。自分だって不注意な方ではないのに、全く気づかなかった。というか、どっから現れた?
だが驚くより先に謝るべきだろう、と宮地は思い、すいません、と手をさしのべる。どうやら少年であったそれは、見覚えのある水色の髪を持っていた。

「いえ、大丈夫です。こちらこそ不注意で…」

顔を上げた少年も、宮地と同じ様に目を見開く。

「誠凛の、黒子…?」
「秀徳の宮地さん…」

「まさかこんな所で黒子に会うとはな…」
「はい。僕もびっくりしました」

あれから宮地は再度黒子に謝り、今図書館の同じ席についている。お互い知らない顔ではないが、そこまで関わりがあるわけでもない。宮地にとって、現チームメイトの元チームメイトというよく分からない関係だ。
そのため会話もあまり続かず、2人の間に沈黙が流れた。
しかしマイペースに定評のある黒子。黒子は宮地の肘の下に置かれたレポートに興味を持った。

「それ、何ですか?」
「え?ああ、学校の課題だよ。試合とかで授業に出れない時もあるからな」
「あ、分かります。しかもそういうのって授業より難しかったりするから苦痛なんですよね」
「そうなんだよなぁ……」

ふふ、と分かりにくい笑顔を浮かべる黒子。宮地はその笑みに何故か癒しを覚えた。
宮地もそんな黒子の手元に視線を落とせば、高校一年生が読むとは思えない、分厚い文学書があった。そういえば、先程黒子の本を拾った時も、似たような本が多かった気がする。

「黒子は読書が好きなのか?」
「はい。基本何でも読みますが、文学作品が好きですね。メジャーな所だと、夏目漱石が好きです」
「…芥川龍之介とか、太宰治は?」
「芥川龍之介は、『蜘蛛の糸』とか…太宰治は、ちょっと読んでいてイライラします」

宮地はこれだ、と黒子の手を取った。

「頼む、黒子。俺の力になってくれ」
「…え、あの、はい」

わけもわからず頷いた黒子に、宮地は微笑んだ。
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