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□チョコレート系男子
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黒子テツヤは歓喜した。そりゃもう自室の低反発でもないクッションの形が歪む程足を打ち付けて歓喜した。
その手に持っているものは、花や動物のコラージュによって装飾された乙女チックなチラシ。男子なら手に取るのも恐れ多いそのチラシを、黒子テツヤは色素の薄いその瞳をきらきらとした眼差しで見つめている。

(リラックヌマグカップ限定品…!これは絶対ゲットしたいです…!)

その瞳に映るのは、チラシの中で最も大きく存在を主張するリラックスしているクマのキャラクターマグカップ。同じキャラクターのグッズが、黒子の部屋にも置いてある。限定品と銘打つそれは、黒子のハートを掴むのには簡単すぎる代物だった。

黒子テツヤは乙男である。前述の通り可愛らしいものが大好きだし、甘いものだってマジバのバニラシェイクの比にならないくらい愛している。料理やお菓子作り、おまけに編み物だって得意の範疇に入るのだ。

(ああ…しかしどうしましょう、いつもなら通販ですませますが、これは店舗限定品…しかもこの店はファンシーショップ中のファンシーショップといっていい程の聖地…じゃなくて場所です。いくら僕が影が薄いからといって、流石に女の子の中に入るのは…)

頭をかかえて悩む黒子。黒子は乙男だが、自分の中の男子を捨て切れてない。とはいっても、捨て切れたらそれはただのオネエなのだが。
黒子は昔から自分の小柄で華奢な男らしさがない自分自身が嫌で仕方なかった。高身長に憧れて、丸太の様な腕に夢をみて。
そんな誰よりも男らしさを求めていたのは自分だった筈なのに。どうしてこうなった!!

(はあ、けどやっぱり好きだからやめられないんですよね…。火神君が羨ましいです。でも、あの食べっぷりは真似できそうにないです)

自分の相棒である火神を思い浮かべる黒子。きりりとした眉、鋭い眼光、高い身長、がっしりとした身体つき。何もかも自分が欲しているものだ。
そうこうしている内に、何故か黒子の手元には編み棒が。それは可愛い編みぐるみが完成していた。

「って何やっているんだ僕はああああああ!!!!」

黒子はそう叫びながら、投げ捨てようとしても出来なかったつぶらな瞳の編みぐるみと向き合う。我ながらいい出来だと頬が緩みそうになるのを抑えて、幾つものぬいぐるみが並ぶ棚に新しく一員として加えた。
黒子は編み道具をしまってから、マカロン型のクッションを抱きしめる。チラシを見つめ返して、一つ溜め息を吐いた。

(このお店は誠凛の近くの店ですし、下手すればバスケ部の皆さんに会うことになってしまいます…)

彼等が人の趣味ぐらいで黒子を突き放す様な人間ではないことは分かっている。けれど、どうしてもこのことを明かす勇気が出てこない。それは恥ずかしいからだろうか、それとも、自分自身の問題なのだろうか。
そっと自嘲気味に微笑んで、黒子はクッションを床へ投げ捨てた。


翌日。カーテンから差し込む光に目が覚めて、黒子は勢いよくベッドから飛び起きた。
丁度今日は日曜日。部活の練習もなく、空も青を極めており、出かけるには申し分ない。

「絶対ゲットしてあげますから、覚悟しててくださいね!リラックヌ!」

昨日のシリアスムードはどこへやら、いっそすがすがしい程に黒子は開き直っていた。黒子の脳内を占めるのは愛しのリラックヌ。それ以外などどこ吹く風だ。
ビバ乙男ライフ!
それでもあまり友人には遭遇しない様に、早めに出ることは忘れなかった。
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