Is じゃすてぃす!!

□1 嗚呼、
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声優さんの美声がヘッドフォン越しに流れ込んでくる。ちなみに聴いているのは某ヤンデレCD。ノリで買った普段は聴かない乙女向けCDは、やはり私にはあまり合っていない様だ。

「こいつらくっつけばいいのに…」

CDジャケットに載ってる、今現在私を奪い合っているこの目がヤバい兄弟を見つめながら、私は呟いた。おおよそ乙女系CDを聴く乙女は、こんなこと口にしないだろう。
まあしょうがない。
だって私は乙女じゃなくて腐女子なのだから。
いいじゃないか、ヤンデレ×ヤンデレ。お互い死ぬ程(洒落にならない)一途だからきっと幸せになれるぞ。お互いがお互いを監禁してどうしようもなくなるな、はっはっは。
…おかしい、幸せになってないぞ。
こんな話友だちの乙女ゲーマーに言ったら絶対アイアンクローくらうな。

「…っと。息抜きで聴いてたんだから、変な方向に傾いたら駄目だ」

ヘッドフォンを外して、机に向き合う。一枚の紙を丁寧にファイルから取り出し、ペンにインクをつけて走らせる。
一般人の子に見せたら9割の確立で驚かれる水色のシャー芯で下書きされたそれは、所謂原稿用紙というものだった。
おっと、勘違いしないでほしい。確かに私は漫画を描く。けど別に漫画家志望者というわけでもないし、勿論現役中学三年生作家でもない。

私は所謂、『同人作家』だ。

ジャンル?まああれだ、男同士の行きすぎた友情とでもいっておこう。
ペンを入れたそこには、私の絵で色白で華奢な少年が描かれている。その周りを囲むのは、やはり少年。といっても、少年と言うにはでかすぎる図体を持った男ばかりなのだけれど。
水色に金髪、赤、青、緑、紫…カラフルな彼等の髪色を『思い出し』て、スクリーントーンを貼ろうとカッターを取り出した時――

「翔さん!!!!」
「うわあああああああああああああ!!!!!!!」

突然開いた部屋の扉に、声をカッターを振り上げた。そのカッターは見事に後は仕上げだけだった原稿用紙に……ぐさり。

「ああああああああああ!!!!!!!」

あまりのショックにいますぐカッターを引き抜こうとして、けれど力を前の方向に入れてしまい切れて原稿に線が入る。もう取り返しはつかない。

「うわあああああああああああ!!!!!!」
「…翔さん大丈夫ですか?」

無惨な形になった原稿の原因。扉の方向を見ていると、水色の髪を持つ色白少年…私の先程の原稿の『モデル』となった幼馴染みが立っていた。
叫んでばかりの私を、その色素の薄い瞳でいぶかしげに見つめている。

「て、テっちゃん…なに?どしたの」

慌てて原稿を隠す。この幼馴染みは普段は温厚だが怒らせるとかなり不味いことになる。
けれど、いつも洞察能力にすぐれ、単純な私のことなどすぐに理解してしまう彼の力は、今は動作してない様だった。

「…僕、今日、バスケ部をやめました」

か細い声で言われたそれは、聞き取るのがやっとのことだった。普段鉄仮面を保つ彼の表情は、どこか辛そうだ。
とりあえず私は、こんなシリアスなシーンをこんなアニメポスターと漫画だらけの部屋でさせてごめんと心の中で謝った。





嗚呼、
(その瞳には何を映す?)(私のオタク丸出しの部屋ですね分かります)

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