短編 本文内容

□未遂成功論議
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カシャン



微かな音に、そちらを振り向いた。


「――――美由。」


そこにいる彼女の名を呼ぶと、彼女の顔がのろのろと上げられた。
少しだけ乱れた髪が、顔にかかって、何故だか美しく感じた。

手に持っていたガラス瓶を近くの机に置いてから彼女に近づいた。
フローリングの床なので靴音が響きやすくて耳障りだ。

――――いっそ作りかえてしまおうか。
そちらの方が彼女も楽だろうから。
とりあえずは後で絨毯でもひいてあげよう。


「起きた?」


「――――」


私が問いかけると彼女の肩が小さく震えた。
それでもこちらを見続ける瞳は、長いまつげに彩られた黒の中に、仄かな不安と恐怖と、そして混乱や疑問があるのが見て取れた。
そして、その影に紛れて、冷たい私の姿。
長い黒髪、中性的な顔。

もとより白い肌は、ここ最近の無理がたたってか、さらに白くなって、疲れが見て取れる。
桜色の唇に、仄かに色づいた頬。


「お腹空いた?」


「――――――――」


私が問いかけるが彼女は答えない。
口を開こうとしては逡巡して、結局閉ざしてしまう。
怯えるように拒絶するように閉ざされたそこを無理矢理にこじ開けたい衝動に駆られる。
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