□第四十二章 進撃
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 ――そも、聖王のゆりかごとは。
 戦史時代の古代ベルカですら既にロストロギア扱いだった古代兵器。失われた世界、アルハザードからの流出物とも言われている。
 その真偽は兎も角として、最大の危険は軌道上、つまり二つの月の魔力を受けられる位置を取る事で極めて高い防御性能の発揮と、地表への精密狙撃や魔力爆撃が可能となる事の他に、次元跳躍攻撃や次元空間での戦闘を可能となる事。
 そうなれば、次元航行隊とも正面から渡り合える戦力と成りうる。軌道上へ移動される前に、それを阻止しなければならない。
 阻止方法は、聖王からの命令、もしくは本体内部駆動路の停止。
 鍵となる聖王――ヴィヴィオは実質スカリエッティの支配下にあるわけだが。
「邪魔するなぁあああ!!」
 向かい来るガジェットを容赦無く斬り落としていたましろは、聖王のゆりかごから次から次へと出撃してくるガジェットや砲撃に、思わず舌を打った。
 聖王のゆりかごの大きさは半端なものではない。多くの航空魔導師が駆り出され、はやてが指揮を取っているとしても外側からの攻撃にはやはり限界がある。正直に言えばジリ貧だろう。
『ましろ君、お願いええか?』
「はやてか。なに?」
 切っ先から生み出した衝撃波で辺りのガジェットを斬り払ったましろは、繋げられた通信に返答しながら、背後から迫っていたガジェットを前を向いたまま射撃魔法で撃ち落とす。
『突入口が開けた。なのはちゃんとヴィータが向かってる。外の指示は私が引き受けるから、頼めるか?』
「了解」
 その言葉を待っていましたと凶悪に表情を歪めたましろは、剣を前方に向けると、そのまま聖王のゆりかごへ突っ込んでいく。途中、ガジェットを巻き込んで破壊していくのは、狙ったわけではない。完全な“余波被害”である。
 盛大な破壊音と共にゆりかご内部へ侵入したましろは、身体を襲った違和感に眉を寄せる。
「AMFか。しかも内部全体とはね」
 しかし、リミッターが一部外されている現在のましろならば、AMFを“振り切って”行動が可能だ。
 それでも、広いゆりかご内部を進むならば無駄に体力を消耗すべきではない。壁を歩法で蹴り飛ばしながら着地したましろは、続いて突撃してきたなのはとヴィータと合流した。
「バックアップが頑張ってくれてるみたいだけど、ゆりかご内部の詳細ルートがわかるまで少し時間が掛かると思う」
「まさか、それまで待ってろ、なんて言うんじゃねーよな」
 そんなはずはないと分かりきっていながら問い掛けたヴィータは不敵に笑い、ましろも当然「そんなはずはない」と返す。
「ぶち抜いて進んでおく!」
「おーし、今回は珍しく意見が合ったな」
「ヴィータちゃん、ましろちゃん、そんな最初から飛ばしたら……」
「後衛のなのはが頑張るより、前衛の私達が張り切った方が効率いいし」
「後衛の戦力温存は前衛の仕事だ」
 魔力消費を極力抑えるようにと言うなのはに対し、ましろとヴィータは至って真面目に返す。普段は同じフロントアタッカーであっても、へにゃへにゃしたましろにヴィータが食って掛かる事が多いが、こういう時に限って正論で息ぴったりである。
 そう言っている間に、ましろ達の突入を感知したガジェットが侵入者撃退に向けて差し向けられた。
「いくよヴィータ!」
「おう! アイゼン!」
 力強く床を蹴ったましろは、魔力の補助無しに跳び上がり、落下しながらガジェットを刺し貫いて破壊する。その直後、無防備なましろを狙ったガジェットは、ヴィータが生み出した鉄球が撃ち抜き、墜とす。
 迎撃に出て来た数十体のガジェットが沈黙するまで、十分も掛かっていない。
 特に打ち合わせも無しにやってのけた二人だが、疲労度は大きく違う。御山式をフルに活用する事でほぼ魔力無しに跳び上がる事が出来るましろと、そこまで体術を極めていないヴィータでは、攻撃に掛かる負担も変わってくる。
 それでもましろはヴィータに下がっているようには言わなかった。
 当時、なのはを守り切れないで悔やんでいたのが自分一人でないこと位、ましろだってわかっているつもりだ。
 程なくして、通信により、ゆりかご内部のルートが提示された。
 ヴィヴィオとレツェリアが居ると思われる玉座の間と、ゆりかご駆動路の場所は、正反対の位置。
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