恋姫・長編
□第一章
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作られた外史――。
それは新しい物語の始まり。
終端を迎えた物語も、望まれれば再び突端が開かれて新生する。
物語は己の世界の中では無限大――。
そして閉じられた外史の行き先は、ひとえに貴方の心次第――。
……いや、貴女、であったか。
それはさておき。
さあ。
外史の突端を開きましょう――。
――此処は何処?
いや、私は誰?とか在り来たりなボケまでかますつもりはないけれど。
私は皇神秀。高校二年生。特に特徴が無い事が特徴な一般人です。いえい。
……じ、自分で言ってて悲しくなったりなんかしてないよ、うん。
そんな平々凡々な私は、ありきたりな生活しか送っていなかったわけで、学生らしく学校で過ごして帰宅途中だったわけで、気が付いたら目の前の風景が見慣れた住宅街から見知らぬ風景の広がる平原に居た、とかいう体験も無いわけで。
……もう一度言う。
「此処、何処っ!?」
うわあああ、と頭を抱えて叫んでみても、答えてくれる人影すらない。完全なひとりぼっち。
「……あ、文明の利器!」
これから、と言うかまずはどうしたらいいのか、と悩んだ私は素晴らしい存在を思い出した。
文明の利器、つまり携帯電話である。
生憎、私は普段ナビゲーションアプリとか使わないから無いけれど、誰か知り合いに連絡を取るくらいは出来――無かった。
「圏外……っ」
ガクーン、とその場に膝をついた私はうなだれた。文字通り、天国から地獄へ、持ち上げて落とされた。
落ち着いて考えてみれば、当然か。見渡す限り、アンテナどころか電柱も見当たらないんだから。一体私はどんな田舎に来たのかわからないけど。
しかし、困った。連絡をつける手段が無ければ、自分の足で人を探さなければならない。
この、見渡す限り街どころか建造物が見当たらない平原を当ても無く彷徨うのは得策ではないけれど、他に方法も無いんだから仕方無いよね。
自分を無理矢理納得させた私は、肩から斜めに掛けた通学用のショルダーバックの中身を確認する。
学校のロッカーに教科書を全て置いてきている不真面目な私のバックは、学校指定のジャージ、空になったお弁当の入った巾着、基本的な文房具は入っている筆箱、部活に使う資料や実験器具……等がある。他にもあるけどね。
「中身は全部無事、かな」
良かった、と胸を撫で下ろす。
因みに、実験器具と言っても大したものじゃない。私は郷土研究同好会、とか名前だけ立派な部活に所属していて、その活動は名前の通り自分達の住んでいる地域について色々調べてレポートとか書いて発表したりするんだけど、そこまで真面目な部活でもない。実質、熱心に打ち込む部活が見つけられなかった生徒が所属しているだけだから。
私の通う学校は健全な精神を育てる為、とかで必ず部活に所属する事が義務付けられていて、転部とか退部すると先生からの評価も下がる、ちょっと面倒臭い高校なので。部活に対して意欲が低い生徒の救済措置、みたいな感じかな。
それで、私の実験器具は年に数回あるくらいのレポートを作成する為に使う資料集めの道具で、簡単な地質調査に使われる。アルカリ性とか、酸性とか、そういうのね。で、その地質とその地域の農業や農作物の関係とか、そんなことをまとめてレポートにして、提出。するとあら不思議。学校の図書室から資料となる本の内容を引用してレポートを提出した部員より評価が高くなります。自ら調査した、って部分が評価されるみたいだけど。
「うん、よし。レポートもちゃんとある。提出期限もうすぐだから無くしたら面倒だもんね」
私の場合、家にあるパソコンとプリンターを使ってレポートを提出するから、全部手書きだったりする他の部員よりは全然楽なんだけど、面倒なものは面倒だし。
「よいしょ、と」
内容を確認した私は、バックを肩に掛け直して歩き出す。とは言え、目的地も何もあったものじゃないから、適当に。
ただ、暫く歩いてみても、周囲の景色にあまり変化は無い。本当に田舎の中の田舎らしい。いや私の住んでる地域も田舎と言えば田舎だけど、携帯のアンテナくらいバリ3でしたよ?
「……ん?」
野宿とかしないといけないのかな、と溜め息を吐こうとした私は、ふと耳に届いてきた人の声らしきものに耳を澄ませた。
……そうだ、これは獣とかの鳴き声じゃない。人の声だ!
助かった、という思いから声のする方へ駆け出した私は、徐々に近付く声に「おや?」と首を傾げる。声を張り上げて、穏やかな雰囲気ではない。喧嘩だろうか。だとしても、他に人も居ないようだし、迷っている余裕は無い。
私は走る速度を上げた。