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□月蝕U
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アンドロイドとの戦いで腹に火傷を負った俺は、医者に『入院の必要有り』と診断され、病院の最上階にある個室に入れられてしまった。
街中に顔を晒してしまった俺を、騒ぎが収まるまで保護してやろうという会社からの有り難い気遣いも含まれているようだった。

しかし退屈だ。
最上階には一般の見舞い客が入れないため、話し相手もいない。
毎日、ヒーロー仲間たちが仕事帰りに会いに来てくれるものの、日中はかなり退屈だ。
窓から見える空は快晴で、ベッドで大人しく寝ているのが馬鹿らしくなる。
外出できないストレスでもんどりうっていると、ドアがノックされた。
「どうぞっ!」
来客がとにかく嬉しくて、俺は声を弾ませる。
ドアが静かに開かれた。

「こんにちは。お加減はいかがですか?」
上質なスーツ。
整った顔には穏やかな笑顔。
ユーリ・ペトロフ裁判官だった。
俺はベッドの上で姿勢を正す。
「こっ、こんにちは。裁判官さん」
「ユーリで構いませんよ。今日は一個人としてここへ来たんですから。それより、お体は?」
「これくらい平気です!丈夫なのだけが取り柄なんでっ!」
俺は笑顔で両手をぶんぶんと振り回す。
裁判官さんはにっこりと微笑んだ。
「……どうぞ」
俺はベッド横の椅子を裁判官さんに勧めた。
気まずい。
実のところ、俺はこの人と話すのが苦手だ。
どうしても頭が上がらない。
バニーとは違うタイプの『賢い人』だ。
いつも冷静なこの人が、取り乱すことなんてあるんだろうか。
俺は居たたまれなくてテレビをつけた。



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