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□楽園T
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私は、彼を裏切り続けている。
恋人同士と呼べる間柄になっても、私は自身がルナティックである事を隠し続けていた。
虎徹は既にヒーローを引退してはいたが、彼の性格上、ルナティックの行いは許し難いものだろう。
知れば必ず、私を諭し、出頭を促そうとするはずだ。
しかし、私も自らの正義を曲げるわけにはいかない。
犯罪者が存在する限り、死神の裁きは続く。
私が私であるためにも。

私と虎徹は、週末毎にシュテルンビルトで逢瀬を重ねている。
私の残業がある日には、司法局近くのカジュアルなレストランで待ち合わせ、食事をとる事も多かった。
オーバーアクションで近況を語る彼の姿を見ていると、自然と顔が綻んでしまう。
メインの料理が運ばれてきた時、私は彼の背後にあるテラス窓に目をやった。
月が、赤い。
ロブスターと格闘している彼に、私は声をかけた。
「申し訳ありません。まだ仕事が残っていたのを思い出しました。先にホテルへ戻っていて下さい。直ぐに済ませますから」
彼は皿から目を離し、私に笑顔を向ける。
「ん、分かった。裁判官も大変なんだな。でも、なるべく早く戻ってきてくれよな。でないと俺、先に寝ちまうぞぉ」
彼の気遣いに、チクリと胸が痛む。
罪人ヲ断罪セヨ。
私はもう一度、赤い月を見上げた。



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