紅蓮の優姫
□初陣,小田原城奇襲戦
3ページ/3ページ
傷が治っていった兵達は、戦場で舞う少女を見て口々にこう言った。
“戦場を舞う紅蓮の優姫だ”と。
『一通りは良いかな…』
舞う手を止め、辺りを見渡す。すると見えはしないが、茂みの方に気配を感じた。
『誰…?』
ゆっくり茂みに近寄り、葉を掻き分ける。そこにいたのは佐助以上にボロボロになり、起き上がる事もままならない風魔小太郎だった…
『小太郎さん?』
「…………」
分からない…多分会話にならないだろうから、勝手に治療する事にした。扇を取り出し一振りしようとすると、小太郎が警戒するように微かに身を捩った。
『大丈夫…私は臣緒。私を信じて…』
返事を待たず(あるかも分からないが)扇を一振り。
「………」
また無言…かと思ったら、小太郎はスッと立ち上がり、身体を二つに曲げた。お礼のつもりかな?
『どういたしまして』
「お、臣緒よ。よくやってくれた!かのような不思議な力を持っていたのじゃのぅ…」
『黙ってて申し訳ありません…!!私も昼間分かったばかりだったので…』
するとお館様は、いつかのように私の頭を撫でてくれた。
「良い良い!臣緒のおかげでこのように犠牲の少なかった戦が出来た、感謝するぞ!」
『ありがとうございます!お館様ぁああ!』
「幸村ぁあ!お主もようやった!!」
「うぉおおぉ!ぅおやかたさまぁああ!!」
「ぃゆぅきむらぁあ!!」
殴り愛開始…
「臣緒と申したのう、わしはしばらく上田城に世話になる!小太郎も何故か主を気に入ったらしい!」
「…………」
「照れるな照れるな!」
(照れるてるんだ…)
『宜しくね小太郎さん!』
片手を差し出すと、何故か首を横に振られる。
(握手したくないとか…?)
『小太郎さん?』
「…………」
これも横振り。
『ん〜…あ!もしかして…小太郎?』
さん付けを止め、呼び捨てにしてみる。すると打って変わって小太郎は、首を縦に振り片手を差し出していた。その手を取ろうと私も再び手を延ばすと、私と小太郎の間を何か黒い物体が横切った。
「はいお終い〜。風魔の旦那ぁー、あまり調子のらないで欲しいな」
(何故喧嘩ごし?)
こうして私の初陣は武田軍勝利の形で終わった。
“武田軍に紅蓮の二武将あり”
たまたま戦を偵察していた忍によって、こんな噂が全土に広がっていた事も知らずに…
NEXT...