ストーリー

□Last

2度の夏をこえ、僕は最後の大会へ臨んだ。

少し緊張した。
僕は、大学へは進学しない。企業で走るなんて事もしない。
終われば引退。最後の走り。

変な自信もあった。
僕はこの会場で一足が早い。なんて事はない。
でも、空に1番近いのは僕だ。なんて。


アップをして時間になったら召集。前の2組が走り、スタート位置につく。

ふーっと息をゆっくり吐いた。いや、正確には吐こうとした。途中で息が詰まった。

僕の目はグラウンドの端で青くて大きい何かを持つ人を写した。久しぶりの、しかしよく知っている顔だった。
距離があるのに表情までよくわかった、企みを成功させた時の意地の悪そうな満面の笑み。



呆気にとられるも、すぐにスターティンググロックに足を置く。

用意。

質の良くない拡声器の声。
いち、に……。


パーン――

火薬のニオイに背を押され、僕は青いそれに向かって走った。








「どうだった?」
後ろから、かけられた声。
久しぶり。とか挨拶の類は一切無しに、卒業以来の先輩の声。

「自己ベスト、更新しました。まあ全国には行けませんけど」

「そうじゃねぇよ、わかってんだろ。
俺は飛んだ。間違いなく飛んだぜ!」


「僕も。僕も飛びました。
青かった。空、青
かった
です」

振り返って顔を見れば先輩は満面の笑顔。
多分僕も。

「空飛んでそんな感想かよ。まあいいか。で、お前どうする?」
「へ?」
「俺は次は宇宙に行く。お前は?」
「は!?えっと……









僕も行こうかな…」
「棒高跳びでも始めるか?」
「馬鹿にしてますか?」
「少し」



……。


「…そういえば、ソレどうやって持ってきたんですか?」

僕は、目で丸められた茣蓙のようなソレをさした。

「決まってるだろ





電車と徒歩」

予想通りで僕は吹き出した。その後、あははははと腹を抱えて笑った。



仰いだ空は高かった。


僕は、いや僕等はあそこに行ったんだ――。





end.

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