ストーリー

□学生の恋愛もの。



遅い時間になってしまったから。と、ヤツは家まで遅らせてくれと言った。

ヤツが心配性なのは薄々感ずいていたので好きにさせたのだけれど、自分ん家の最寄り駅の改札を出た辺りでヤツの家の場所を思い出した。それがもう随分と綺麗に逆方向だったもので、なんだか少し申し訳ない気持ちになった。
なので、茶くらい飲んでいけるか。と訪ねてみたところ大丈夫らしいので家にあげた。


われながら生活に支障をきたさないのが不思議なくらい何もない家を少し恥ずかしく思ったが、さいわいお茶を入れる道具はある。
しかもすでに茶托にセッティングまでしてある急須と湯飲みに生粋の日本人である私より少し色素の薄いヤツは、目をキラキラさせた。
いわく、
生活習慣は母親の国のほうがどうしても濃くなるものなんだ。

茶柱が立つと良いんだよね。とアイツが無駄にはしゃぐものだから、昔、祖母に教えてもらった100発100中で茶柱が立つ裏技をしてやった。

私としては、どちらかというと意地の悪い心からとった行動なのだけれど、ヤツは目を真ん丸くして驚いた後、満面の笑みで私を称賛した。

貰いものの和菓子があったのでついでにだした。

自炊をしない私の家には皿がない(名誉の為に言うが箸は持っている)ので、かわりに和紙をひいてやったら、またテンションが上がったようで満面の笑みを浮かべていた。

おいしそうに食べるし、私はそんなに甘いものは量を食べられない人種なので、まだあるのを包んでやろうかと訪ねたがヤツは、賞味期限に余裕があるのなら、また家に来て食べたい。と言った。

なんでも、思いのままに茶柱を立てられる人は私しか知らないから。だそうだ。

これまたニッコニコ笑いながら言うものだから遠回しの所謂男女関係的な意味に好意がある宣言かと勘違いしてしまいそうになる。

まぁ、そんな事は無いと分かっているのだけれど。。。

 前々から思っていたのだけれどヤツはよく笑う。
そういう人種なのだ。

それはもう幸せの沸点が不憫なまでに低いんじゃないか。と要らぬ心配をしてしまいそうになる程、幸せそうにコロコロ笑う。

でも、だから、いや、なんというか、、、
そんなヤツならこんな私なんかでも幸せを与えてやれてるんじゃないかと思えてしまって。
笑顔を与えてやれているじゃないかと嬉しくなって……。





私は初めて恋をした。


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