ユウヒナ
□第八話『夢を、居場所を守るんだ』
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いつものように杏子に稽古をつけてもらう。
「頑張っている所で悪いけど、魔獣が出たみたいだ」
武器が二種類あるのをどう戦いで生かすかを話し合っている時に、突然現れたキュゥべえが言った。
訊けば既にほむら先輩が戦っているものの、敵の数が多すぎて苦戦しているらしい。
「そこって恭介がコンサートの準備してる場所じゃん!?」
学校で何かあったらしく、ずっとうわの空だったさやか先輩が魔獣の出ている場所を聞いた瞬間に飛び去ってしまう。
「あのバカ、一人で突っ走りやがって! アタシはほむらと合流しつつ、さやかを追う。夕夏とマミは討ち漏らしの殲滅を……いや、マミを頼んだ、夕夏」
杏子はマミ先輩を呼んだが、自分の肩を抱き震えるマミ先輩を見て口早に言い件の場所へ向かった。
敵の規模がどれくらいかはわからなけれど、ほむら先輩にさやか先輩、杏子と三人の魔法少女が対処しているから何とかなるのだろう。
実際どうにかするつもりだから、足手まといになりかねない今のマミ先輩を無理に連れて行こうとはせず、わたしに任せたのだろう。
それは冷静に状況を見た合理的な判断だと思うし、マミ先輩の身を案じての優しさだとも思う。
「杏子達が人助けに集中出来るように、わたし達も行きましょうか」
だけど、ここで立ち止まってしまったら二度と歩けないような気がする。
逃げるのは簡単だし、いつだって出来る。
それに比べて、立ち向かう事はとても難しいし辛い。
自分には無理だもう戦えない、と震えるマミ先輩。
いつかのマミ先輩は恐怖に身を震わせるのではなく、勇気に心を奮わせていた。
「マミ先輩、言ってたじゃないですか。一人でも多くの人を守るのが魔法少女としての務めだって」
不安や孤独の裏返しに格好つけていただけだとしても、そんなマミ先輩に助けられて憧れた。
初めて見たその姿は自信に満ち溢れていて。
優しさと強さと華麗さを兼ね揃えていて、今まで見たどんなヒーローよりも格好良くて。
だけど、本当は寂しがり屋で人一倍努力家で格好良いと言うより可愛らしい先輩で。
「それに、病弱で外に出られない人だろうが……日々を無駄に過ごしてきたヤツだろうがいつかは終わりがやって来ちゃうんですよ?」
手を伸ばして見つめるだけだった憧れは、いつの間にかこの手で守り合い、支え合える仲間になっていた。
今はまだわたしにそこまでの力はないかも知れないけれど、そこそこ強くなっているはず。
いつか言ったみたいにわたしはどんなマミ先輩だって、わたしは嫌ったりしない。
でも、自分の気持ちに嘘はついて欲しくないから。
ただの強がりだったとしても、誰かの為に戦ってきた日々は間違いじゃなかっただろうし、そのお陰で今こんなにも仲間がいる。
辛い事はみんなで分け合えば良い。
ぶつかり合ったり罵り合ったとしても、仲直りして。
誰かが間違ったなら力ずくでも止めて。
上手く出来たなら良くやったな、って笑い合って。
「だから、いつ最期が来ても後悔しないように出来る事をやれるだけやってみましょうよ?」
出会って、ぶつかって、笑って、間違って、離れて、後悔して。
そんな小さな事や大きな事を繰り返して生きて行く。
何があったとしても、振り返れば今まで歩いてきた道がある。
暗すぎて行き先がわからない時だってあるだろう。
だけど、シナリオ通りに生きてくのも辛いし、面白くない。
「……なーんてわたしが言っても格好つかないですが。結局、わたしは自分勝手で、マミ先輩と一緒に戦いたいだけなんです」
――何かの終わりは、他の何かの始まりなのだから。
言いかけた言葉を飲み込んで笑う。
わたしが格好良い事言ったって、口だけにしかならないだろうし。
「もう、先輩が怖がってるのに一緒に戦おうだなんて……酷い後輩ね」
マミ先輩が小さく笑いながら歩き出す。
その足取りはとても弱々しく、頼りないモノだったけれど少しずつ前へと確実に進んでいた。