文
□落ちる10秒前
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「おはよう、名前。今日も可愛いね」
長い髪をサラリとなびかせ、後ろに大輪の薔薇が見えるほどきらびやかな笑顔で現れたこの男。
「…おはよう南野君。いい加減家の前で待ち伏せするのやめてくれないかな?」
「やだなぁ、待ち伏せだなんて。名前を迎えにきたんですよ」
さ、早く行きましょう、と差し出された手を無視し、学校へと向かう。
何故だか知らないが、私はこの男に気に入られたらしい。
いい迷惑だ。
「名前、カバン持ちますよ」
「いいですいいです。大丈夫です」
「あ、なら学校までお姫様抱っこしてあげましょうか!ね!って、アレ?待ってくださいよー!」
「……」
アホだこの人。病院行った方がいい。
悶々と考えながら歩いていたら、急に腕を引っ張られ、南野君の胸に引き寄せられた。
「ちょっ…!」
「危ないですよ。赤です」
「あ…」
気付かなかった。
どうやら助けてくれたらしい。
「…ありがと」
「いえいえ。気を付けてください」
にっこりと笑って、私の頭をポンと軽く叩く。
その笑顔に、不覚にもときめいてしまった。
落ちる10秒前
(ほんと顔と声だけはいいんだから…イヤ、頭も運動神経もか…)
(名前!前!前!)
(え?うわぁぁ!!)←溝に落ちた
END