『恋乱』・[恋戦]・「二世の契り」短編

□[恋戦] 秋色 〜武田信玄〜
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*〜*〜*


ここ数日に降った雨のせいか、過ごしやすい陽気になった。



朝晩は、涼しげに聞こえる鈴虫の音色。


昼間は、すっかり秋独特の爽やかな風の匂いが漂っていた。



『また、ここに居ったのか、**姫』



「お館様…
お早うございます」




ここは武田の領地。

私は、病で伏せって居られる父上の代わりに、西軍か東軍に付くか見定める為、護衛役の小次郎と共に、旅に出る事になり…


旅の途中で、かつての幼馴染み、弁丸―― 改め、
真田幸村様と再会し、武田が主、信玄様の側で素性を隠し、侍女として働く筈が、その鋭い洞察力から直ぐに〇〇家の姫だとバレてしまったけれど、信玄様はそんな私を丁重に扱ってくださった―――。




『毎日そんなに眺めて
飽きんのか』



「飽きるだなんて…
一日中見て居ても見飽きたりなどしません」



ふと、お館様の表情が柔らかくなる。


そして、私の腕をその逞しい胸に引き寄せられる。



『いい加減、その≪お館様≫は止められんのか』



(そうでした)



私は、武田と同盟を結ぶ事を選んだ。


そして今は―――。



「信玄様」



晴れて、この方の正室になったのだ。



『それで良い。
お前は何事にも慎ましやか過ぎていかん
それはお前の美徳と言えるだろうが』




信玄様が私を抱き締めた。

するとそこへ……。



『お館様
馬の準備が整って――…』


現れたのは、幸村だった。

(なんて間の悪い時に…)


信玄様は何時も、政務の時など、お忙しくしている以外は、私から傍に片時も離れる事はない。


まして、私が信玄様の腹心でもある高坂様や、他の殿方との会話を交わすだけでも、不機嫌になってしまわれる…。


特に、幸村に対しては、私が幼馴染みである事が気に入らないらしい。




『ご苦労。真田。
今日一日は、姫と二人だけで有意義に過ごしてくる。
そなたは留守を怠るな』




信玄様の台詞に、ニッコリ笑いながら…



『どうぞ、ごゆるりと』



幸村が言った。




*〜*〜*



信玄様の馬に乗りながら、私は考えていた。

何時もなら、幸村に対しては特に怒声とも、罵声とも言える様な大きな声を出しているのに…。



(ここは、ひとまず、遠回しに訊いてみましょう)



「信玄様…あの…
今日はとても機嫌が良いのですね。
何か良い事がございましたか?」




『……………』



私の質問に、信玄様は黙ったまま、お答え下されない。



(私は何かお気に障る事を言ってしまったかしら…)


そのまま、沈黙が続いて、内心しゅんと気分が下がった。


カッ…カッ…と馬の蹄だけが虚しく響いた。




暫くして―――……。



『着いたぞ』



「……え…?」



俯き加減でいた顔を、思わず上げた。



そこには―――。



一面に咲き誇る秋桜。


しかも馬上から眺める秋桜は、色鮮やかで、とても綺麗だ。



『これだけあれば、姫も満足であろう?』



「…私の、ために…?」



『他の誰にこんな事をするか!』



そう言う信玄様のお顔は、赤くなっていた。



そして、フワリと抱き締められる。



『お前はさっき、俺が何故今日は、機嫌が良いかとそう申したな』




「……はい」



『今日は姫の特別な日だからに決まっておろう。

そんな日に、真田の若僧に嫉妬など断じてしておらん』




(嫉妬などしてないと言いつつ、信玄様のお顔が先程よりも赤いような…)




『お前は俺だけを見ておれば良い。
余所見は許さん…。

それに――……

―――…』




「…信玄様…///」




耳元で、不意に付かれた言葉。



『(俺と姫の間に入れる者など誰一人居ない…)』



そう甘い声色で、囁かれて、今度は私が顔を赤くする番だった。




私と信玄様。

風に静かに揺れ動く秋桜の園。


秋の深まりを感じられる爽やかな風が、私達二人を包んでいた―――。



*〜* 終 *〜*





*〜*後書き*〜*



第二幕のメインキャラの一人、武田信玄様は、ソフト俺様で、とっても凛々しい!

でも、やっぱり中々、どのキャラも祝言√にはたどり着けない…(>_<)
 

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