宝物箱・金平糖BOOK

□「kindhearted〜藍島ノエル〜」
1ページ/1ページ






――――――――――





――…《揺りかご》のようだ、と。





充足と安らぎと優しい感情で満たしてくれる――…体温にはそれだけの効果があり、だからこそ人間(ひと)は無意識のうちに温もりを求めてしまうのだろう。




以前のノエルにとってそれは縁遠いものだった。他人に興味がなく、懐に入れた者とそうでない者の違いは歴然で、取材を受ける事は稀で異例と呼ばれた程だ。
けれど、仁美と出逢い、交流を深めるにつれ、心は不思議な感情で満たされるようになり、それが《恋》だと気付くまでに時間は掛からず――…
(……初めてだ)
心から想う――…その感情は子供の頃より明確で強烈で、戸惑いもあったが嬉しさが内側を占めて――…それはきっと仁美だからで。
様々な困難があったものの、二人は無事結ばれ、晴れて恋人に。
これはそんな二人のある日のお話――…




――――――――――




茹だるような暑さに、照りつける太陽――…
ノエルの取材を終えた仁美は挨拶をする為ピットに向かうとサーキット特有の匂いと熱気が漂っていて、一瞬視界が真っ黒になる。
《…だ、大丈夫ですか?!》
それに気付いたスタッフはすかさず駆け寄るが、##NAME1##は大丈夫と一点張りで、休憩せず立ち上がると挨拶を済ませて帰ろうとする。




「…待って下さい。少し休んでいった方が良いです。ずっと動きっぱなしでしたよね?熱中症にでもなったら――…」




「…平気です。それに帰ったらまだ仕事が残ってますし――…」




休んではいられないとばかりに用意された飲み物を飲むとそのままピットをあとにする。
だが焼け付く光は容赦なく体温と水分を奪い――…
(…あ…れ…?)
視界が真っ黒になり、頭が熱い。思考回路は機能せず、身体に力が入らない。
《――…仁美さん!!》
そこで糸はプツリと切れ、深い海へと沈んでいった――…




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「…ん…」




目を覚ますとそこは見慣れた天井が広がっていて、一応の場所を確かめようと起き上がろうとすると誰かにそれを制される。
《…起きちゃダメ》
傍らに険しい表情のノエルが居て、彼は仁美を眸(め)に留めると強く抱き締めて――…
《――…良かった》
見ると少し震えていて、仁美が聞こうとする前にノエルからその理由が語られる。




「…心配した…ピットで倒れたって聞いて…。
反応がないから焦った…」




その言葉で気付く。
暑さで倒れたのだと。ノエルを心配させたのだと。
《…ここへはノエルが?》
眠っていた場所はやはりノエルの部屋で、医者の診断は軽い熱中症との事で、暫し休んでからこちらへ運んだと説明された。
《……迷惑掛けてごめんね》
そう口にするとノエルは首を横に振って答える。
《…迷惑じゃない。あんたを心配するのは当たり前…。
大事…だから――…》
体温と言葉が心を優しく満たしていく。想われているのを嬉しいと感じながらも申し訳なさもあって――…
しかし、それを言うと怒られてしまうので《ありがとう》と感謝を述べるとノエルはふんわりと微笑む。
《…仁美を助けるのも俺の役目。
だけど…ありがとう》
柔和な表情に心音が速くなる。あまり感情を表に出さないからか、こういう不意打ちには弱い。
けれど、自分に感情を出してくれるのは嬉しくて堪らなくて笑顔で返すとノエルは――…




「……良いな」




「…え?」




「…あんたの笑顔。太陽みたいに眩しいけど温かくて――…優しい気持ちになる」




それはきっとノエルが居るからで、そう伝えると僅かに頬を染める。照れているのが可愛くてたまらず微笑(わら)うと膨れた表情(かお)で――…
《――…笑うな》
そう言って小突くが、全然痛くなくて、こうして二人で笑い合える時間がとても愛おしいと感じて――…
おそらくノエルも同じ気持ちで。




「……仁美」




ノエルはそっと手を取ると仁美を見つめる。双眸は優しく、瞳は鮮やかな彩色を放っている。
《…無理はダメ。何かあれば言って。今日みたいに一人で倒れられたりしたら耐えられないから――…》
体温は仄かに熱く、窺う眼差しに心臓を掴まれた気持ちになる。ノエルの想いに仁美は――…




「…約束する。けど…ノエルも、だよ…?」




「…え?」




「…ノエルも無理しないで。私の居ない所で倒れられたりしたら――…」




考えただけでも恐ろしく、身を震わせた仁美をノエルは安心させるように包んで――…
《――…大丈夫。あんたを置いて行ったりしない》
言葉と体温が奥底に染みていく。揺りかごのような心地良さに瞼が重くなって――…




「…眠った方が良い。睡眠が一番の薬だ、と言ってたから――…」




服越しに伝わる体温に、鼓動に益々眠気を覚え、頭を預けるとノエルは仁美を撫でながら――…
《――…おやすみ。頑張るのも良いけど休息も大事。身体にも心にも――…》
ユラユラと――…言葉は波紋のように広がり、心に安息を齎す。
(…やっぱりノエルが居ないとダメだな)
仁美は力の入らない腕で背中から包み込むと――…
《――…ありがとう》
そう言い残し、眠りにおちたのだった――…




――――――――――




柔らかな寝息を立て眠る仁美を見ながらノエルは――…
《――…無理ばかりして》
記者としての姿勢は好ましく、頑張ってる表情(かお)にいつも力を貰っている。けれど、許容量を越えても仕事をするものだからノエルは内心落ち着かなかった。
皮肉にも今回それを伝える事が出来たのだが、倒れている姿に凍り付き、手が震えて――…
それほどまでに大切なのだと改めて自覚する。




「…守るよ…ちゃんと支えるから…」




体温に、心に、笑顔に――…
全てが愛しく、また同時に支えたいと思った。この温度はノエルにとって無くしたくないものだから――…
《…愛してる…》
眠り姫に口付けると淡い微笑みを浮かべて――…
(…大好き…)
互いに大切で愛おしい――…
存在を確かめ合った真夏のある夜――…









『…あんたが居るから優しくなれる。だから…一緒に――…愛してる』




――終わり――





――――――――――




書いたよ〜(頼まれてもないのに勝手に書いてごめん)
ホムペにもアップして、名前入りを送付
揺りかごという言葉から内容がこんな感じに…タイトルの意味は心の優しいか心の温かい…ノエルっぽくなってたなら幸い
あと癒やしになれば嬉しい



今年も何とか頑張って乗り切ろうね

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ