眠れぬ街のシンデレラBOOK
□貴方に抱かれながら〜國府田千早〜
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☆。☆。☆
最近、眠れない…。
仕事で疲れてる筈なのに。連休だってとっくに終わって5月も、もうすぐ終わって、嫌な梅雨の時期がやってくるからかも知れない。
(今頃になって
疲れが出てるのかな
私…)
ハァ…と力なく溜め息をつく。
「…どうかしたのかい?
溜め息なんかついて…」
ギュッ―――…。
「…千早さん…」
いつの間にか千早さんが、隣に来て私を優しく抱きしめながら、心配そうな顔をしていた……。
國府田千早さん―――。
『美し過ぎる美容外科医』として有名な彼は、私の恋人。
いつも冷静沈着で、だけど少し茶目っ気もあって。
いつも優しい雰囲気を漂わせている彼。
そんな彼は、周囲の気配りに隙がないと言うか…。
だから2人だけの時も、こうして居ると安心出来る。
「ごめんなさい…
せっかく久し振りに
千早さんのお家でお泊まり出来るのに…」
私が俯くと、千早さんは黙って、優しく頭を撫でてくれた。
聞こえるのは、千早さんの心音だけ―――…。
「…何も…聞かない、の?」
「……聞かないよ…
無理にはね…
でも…」
「でも?」
「…悩み事があるなら言ってくれてもいいんだよ?
僕は君に…
***には何時も笑顔でいて欲しいから…
かえって変に遠慮されると寂しいな」
「…千早さん…」
「僕は***にとって
頼りになれてないのかな…」
そう寂しげな目をされると、チクリと胸が痛んだ…。
「違うの…」
私は慌てて、首を左右に振った。
千早さんにこんなに心配を掛けてしまうなんて…。
(本当は私…)
「…***…」
千早さんの温かくて、
大きな手が私の頬を包んで、唇が額にそっと落ちてきた。
私は、彼の肩に寄り添う。
「…最近
何だか眠れなくて…
仕事はそれなりに忙しくて疲れてる筈なのに
だから何でなのかな…って少し悩んでたんです…」
「…クスッ…」
(…え……?)
私がそう言うと、千早さんは口元を緩めて、優しく目を細めて、それでいて何だか少し楽しそうな顔をしていた。
「どうして
そんな顔するんですか?
私、真剣に悩んで――…」
「すまない
気を悪くさせたかな
…でもね…」
千早さんの温かくて大きな腕が、今度は私の体をすっぽり包んで手は、私の背中をポンポンと優しくたたく。
まるで、小さな子供をあやすかの様に……。
そして私の耳元で囁いた。
「人はね…人恋しい場合でも不眠になるんだよ
…知ってた?」
「…いえ…知らなかった、です…
でも…本当に人恋しいだけで眠れなくなる事があるんですか?」
「…本当だよ
現に***とはこの2週間
お互い仕事仕事で
中々会えなかったし…
それに――…」
「…それに?」
私が千早さんの目を見詰めると、彼はまたクスッと笑う。
「***が本当は
凄く甘えん坊さんのお姫様だって事
僕はちゃんと解ってるよ」
「えぇっ!!?
い…いつからそんな事///」
「いつから…って…
***を好きになった時には直ぐに解っていたよ?」
千早さんはそう言うと、至極楽しそうにクスクス微笑を浮かべた後、私を見詰めると、唇を重ねてきた。
そしてまた
「もっとこれからは
遠慮しないでたくさん僕に甘えてくれると嬉しいな」
千早さんは、私の耳元で囁いた。
「さぁ
そろそろ眠ろうか
今日はずっと隣に居るから
ゆっくりお休み」
「…はい」
私は、千早さんの腕に包まれて、千早さんのベッドで眠りに付く……。
それはとても幸せで
とても…幸せで―――…。
千早さんが、いつも使っているお布団や枕はフカフカで、太陽の光りをたくさん浴びた、日溜まりの香りがした。
(…もっと…
これからは千早さんに…
寂しい時は甘えよう……)
私の記憶は
そこまでだった―――…。
☆fin☆