永遠の夢
□気紛れなんかじゃないと言って
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- 柳生Side -
早足に進む先には屋上の扉がある。
そう思い、さらに速度を増した。
名字さんの言葉が、絶え間なく頭の中で流れ続け、ただ生め尽くしていく。
好かれていると思ったことはない。
けれど、けして嫌われているとは思わなかった。
――「嫌いですよ、あんな人」
名字さんの目が、ただつまらないものを見下ろすようなあの目が、興味をなくした玩具を見据えるようなあの目が、嫌だった。
子供のようにみっともなく泣き喚くことはさすがにできないが、息が詰まる。
自分の周りの空気が遮断され、首を締められながら溢れんばかりの水を流し込むような息苦しさに目眩がして、定まらない足取りに思わずその場に座り込んだ。
膝から崩れ落ちるようなその動作は体に余計な衝撃を与え、頭痛を引き起こす。
「―――っ、……!」
叫んでしまいたい。
名字さんに、この想いを。
捨ててしまいたい。
名字さんへの、この想いを。
情けないことに、私に何かをする勇気はありません。
かすかに洩れる声なんて、まるで嗚咽のようなそれだ。
叫ぶことなど、できないのです。
名字さんの嫌がる姿を見たくないのだと、言い訳をして私自身が傷付かないように逃げ道を作っているだけなんです。
この想いを捨てることなど、できやしないんです。
彼女に与えられた、ただ唯一のこの想いを捨てられる訳が無いんです。
「柳生……」
「っ!に、おぅくん……」
扉のなる音に顔を向ければばつの悪そうな顔をした仁王君が居心地悪そうに俯き、私の様子を伺う。
きっと彼は私のことを気にしているのでしょうね。
余計な事をした、とうなだれる仁王君に気にしないで下さいと、心にもないことを言う。
私は、どこまでも意地っ張りのようだ。
パートナーである仁王君にでさえ、私は私の思考を話したことが無い。
「大丈夫ですから、気に病まないでください。仁王君」
「……」
「少し、体調がすぐれないだけですよ」
「……大丈夫なんか?」
仁王君の言葉に肩を揺らした。
大丈夫な訳が、無い。
大丈夫な訳が、無いじゃないですか……!
「……大丈夫、ですよ」
ぎこちない笑みを作ったのだろう。
仁王君の表情が心配したものから何ともいえないほどに呆れたものへと変わる。
「下手なウソつきなさんな。お前には似合わんぜよ」
「……そうですか」
互いに顔を見合い、どちらからともなく手を伸ばす。
仁王君の運動部のわりには白い手はひんやりとした冷たく、感情が高ぶった体には心地いい。
「正直……嫌われているとは、思ってもいませんでした」
「……あぁ」
「私は、どうしたらいいのでしょうか?」
「俺に聞かれても知らん」
あっさりと言ってのけた仁王君が無性に腹立たしい。
その通りですが、少しは優しさを持ってください。
けれども、いつもと変わらない仁王君の態度が今の私には心地いいのです。
「仁王君、……欲しくても手に入らないものはどうしたらいいのでしょうか?」
「そんなの簡単やの」
仁王君独特の雰囲気を引き立る、ニヤリとした意地の悪い笑みを見つめながら、次の言葉に目を見開いた。
「手に入らんのなら、かごに入れればえぇ」