永遠の夢
□君の事、目で追わなくなった
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「知ってましたよ」
名字は無機質な声でさも当然だと言うように答えた。
名字の前に並んだ人物は戸惑いを隠せずにいる。
だからなんだと、名字は平然と言う。
一瞬張り詰めた空気を崩すかのように柳は口を開いた。
「……すまないがお前が言うほど、単純かつ小規模な問題ではない」
「知りません。私に何かを求められても困ります。……ぁ、はよーございます」
横を通り過ぎた生徒に適当な挨拶をしながら、めんどくさそうに視線を向ける。
その仕草には感情もなく、あるのはただの反射機能だけだ。
「君は、どうして弦一郎が好きなんだい?失礼だけど、どうしても理解できないんだ」
「理由がいりますか?人が人を好きになるきっかけはあっても、理由なんて無いと思いますよ」
幸村の問いを切り捨てれば、柳から感心したようなため息がこぼれ、興味津々と言った様子でノートを開く。
「興味深い意見だ。続きを聞かせてもらえるだろうか?」
「……まぁ、いいですけど。――人が人を好きになる理由なんて、塵と同じくらい無価値で無意味です。だって波長が合わなければ破局。他に好みな人間がいれば破局。つまらない喧嘩で破局。関係に飽きて破局。相手を知って破局。気分で破局。その場のノリで破局。他人に騙されて破局。噂に惑わされて破局。信じれなくて破局。好き過ぎて破局。嫌いになって破局」
つまらないですよね。
始終無表情な名字に幸村と柳は顔を見合わせ、何とも言い難い表情をする。
それを知っていながら、名字は気にした様子もなく言葉をつなげた。
「あっさり切れる感情に、理由なんていりませんよ」
「なら、名字の弦一郎への想いも“あっさり切れる”と。そう言うことか?」
名字はくだらない。と呟き、幸村たちに背を向けて歩きだす。
「その質問に答える必要がありますか?」
待て、名字!と叫ぶ声を無視し、歩く。
肌を刺すような風が、辺り一帯を襲う。
綺麗に舞う葉っぱとは裏腹に木々は寒々しく、虚しさを感じる。
細々とした枝は簡単に折れてしまいそうで何とも頼りない。
「………」
名字は視界に映ったその姿に一瞬肩を揺らし、戸惑ったように顔を背けた。
そのまま、その人物に話し掛けられる前に横を通り過ぎる。
「………名字さん……?」
そんな呟きは、騒めく生徒達にかき消された。