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□gray zone
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 夜と同化するように、縁石と同化するように、グレーのセダンが1台止まっていた。


 その中には運転席に男が1人、助手席に女が1人座っている。

 男は黒縁の眼鏡をかけ、黒いスーツを着ている。

 外の窓からでは見えないが、男はシャツを出ているし、ジャケットのボタンは第一ボタンしか閉めていないのでなかなかだらしなく着ていることを女は鬱陶しく感じていた。

 女からしてみれば、外に出たらそんな上っ面だけの格好は仕事に支障をきたすので止めてほしい。

 だが、男曰く、そんなことになれば正体はとうに隠せていないのだから、正体をそんな時に隠しても仕方がないと。


 確かに、尤もだ。


 この男は存在が常に常識から外れているくせに、時々正論とはまた外れただが現実にぴったりと合ったことを言ってくる。

 女からしてみれば、それが時にとても鬱陶しく、苛立つものであった。しかし時として……。



「来たぞ」


 バックミラーにターゲットが映ったようだ。女はもう少しで悪態をつける機会を逃したことに感謝してから、ドアを開けた。


 女は最近、仕事の時は赤いフレアのスカートを履いている。確か、色はボルドーだった。最近の言葉だとバーガンディだったか。

 おしゃれのためでも女の好みでもなく、ただ単にこの色が流行りらしいので目立たないからということだった。

 あるいは流行に敏感という正反対の人格を演じて、世間をさらにまくためである。



 申し遅れたが、彼らは名前がないわけではないのだが、名前を名乗れない仕事をしている。そのため、ここでも彼らの名前は明かされないこととなる。


 女がセダンから出て歩道に立ってみれば、男が言ったようにターゲットが立っていた。



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