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□gray zone
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「それに対する答えはね、やっぱり永遠の謎だと思うよ、ハニー」
まだそのふざけた呼称を使う男に女は嫌気がさしていたが、男の言う”永遠の謎”に興味があった。
「どういうこと?」
「例えば1つ。どっちも大事であるということをなぜ女は理解できないのか。もう1つ挙げるならば、そんなことを聞けるくらいその女は本当にその男を大事に想っているのか」
少し、驚いた。内容だけ聞いていればなんて自分勝手な答えかと思われるが、女にとって男が正論を出したのは意外だった。
しかし、男はまだ自分の考えを言っていない。
「あなたの解釈を聞きたいんだけれど」
「もう一度”ダーリン”って言ってくれたら考えるよ。ハニー」
腹が立ったが、しかたがなく女はそのように男を呼んだ。
「そうだねハニー、それは”世の中の全てのものはお金で買えるか”という問いと同じかもしれない」
「人それぞれってこと?」
この男は、回りくどい言い方をするか、適当な答えしか言わないので、女はしかたなく合わせた。
「それもある。だけれど、結局のところはっきり答えられないということでもある」
「いわゆる、あなたたちの大好きな都合の良いグレーゾーンってやつね」
「そう。例えば、金持から金を盗んで資金を調達はしているが、それで未来は変えられるのだろうかという問いと同じかもしれない」
女は男に背を向けながらも、破顔していた。
この男がいるからここで仕事を続けようと思うし、ここでやっている仕事も無駄ではないと思える。
たとえこの二人の関係も、どのような関係か分からないグレーゾーンだとしても。
「ただ1つ私が思うのは、金持ちが変なところに使う金が、私たちの望むところに使えるのならば、それは無駄なことではないと思うの」
「ハニーは白黒はっきりさせるのが好きだからね」
『残念ながら、現実はそうはいかないけれど』
男が言わずにいた言葉を、女は確かに聞き取った。
「そうね。でも、1つの考えに固執していたら、あるいは答えを出さずにしていたら未来は開けない」
「そうだね。ハニーのそういうところはいいところだ」
男は苦笑した声をあげながら言った。心の中では、そんな不器用にしか生きられない女のことを嘲笑っているのかもしれないが。
空はオレンジ色が染めている。
残念なことに、現実社会も二人の周りにも灰色のもので溢れているというのに、空は灰色にはならないらしい。
「次のターゲットが送られてきたわ」
「どこ?」
「Aの2」
「おっと、そんな近くに来るなんてチャンスじゃないか」
「こんな外れに来るようじゃ、お金はそんな持っていないかも」
「愛人にがっぽり貢ぐ気かもしれない。何はともあれ、ハニーの愛人芸が今日も見られるなんてラッキーだな」
「時にはあなたの紳士ぶりも見たいものだわ」
女は思う。自分たちに未来はないのかもしれないが、それでも目的の達成できない未来ならばいらない。
男は言うだろう。未来はそれだけではないし、それだけでは終わらないと。人は簡単に死なないし、死なない限り明日はどのような形であれ続くのだから。
それならば、どんな形であれ続けていくしかない。
何はともあれ、今日の仕事のため、二人は黄昏に染められた灰色の部屋を後にした。
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現実はきっと、1つには定まらない