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「それで?良い夜は過ごせた?」


 答えはよく知っているくせに、男はそんな軽口をたたく。今が昼なのをもしかして分かっていないのかもしれない。


「まさかそれ、”良い”と”酔い”をかけてるわけじゃないでしょうね」

「分かった?さすが男の扱いに慣れている女は違うね」


 まだ軽口をたたくか。女がその先まで進めるほどの外見的な魅力もなければ、そんな気がないことを男は知っているはずなのに。

 女は心の中でため息をつきながら、マスターに聞こえるようにもう一度答える。


「まさか。あの後すぐに”用件”を済ませて、離れたじゃない。旦那のふりして迎えに来てくれたのは誰なの?」

「まったく、ハニーは冗談が通じないな」


 呆れた。どこまで本気なのか、それとも上機嫌なだけなのか。


「替え玉がいくつかいっているはずだから、もう中を開けていいわよね?」

「もちろん」


 部屋の奥からは、低い別の男の声がした。この男もこれから名前を明かされることはないが、”マスター”としてこの仕事を取り仕切っている。


「中身は、諭吉さんが10枚にカードがいくつか。さてはあいつ、あの蜂蜜女たちにそうとう貢ぐ気だったわね」

「おう、容赦ない」

「当たり前よ。きっとあいつ、外国でレディーファーストだけ学んで帰国したわね」

「そしてそれだけ盗まれてもどうでもいいと思っているのさ」

「金持ちって本当にくだらないのね」

「ハニーは容赦ないね」


 男は苦笑して、伊達眼鏡を直した。




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