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□gray zone
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「それで?良い夜は過ごせた?」
答えはよく知っているくせに、男はそんな軽口をたたく。今が昼なのをもしかして分かっていないのかもしれない。
「まさかそれ、”良い”と”酔い”をかけてるわけじゃないでしょうね」
「分かった?さすが男の扱いに慣れている女は違うね」
まだ軽口をたたくか。女がその先まで進めるほどの外見的な魅力もなければ、そんな気がないことを男は知っているはずなのに。
女は心の中でため息をつきながら、マスターに聞こえるようにもう一度答える。
「まさか。あの後すぐに”用件”を済ませて、離れたじゃない。旦那のふりして迎えに来てくれたのは誰なの?」
「まったく、ハニーは冗談が通じないな」
呆れた。どこまで本気なのか、それとも上機嫌なだけなのか。
「替え玉がいくつかいっているはずだから、もう中を開けていいわよね?」
「もちろん」
部屋の奥からは、低い別の男の声がした。この男もこれから名前を明かされることはないが、”マスター”としてこの仕事を取り仕切っている。
「中身は、諭吉さんが10枚にカードがいくつか。さてはあいつ、あの蜂蜜女たちにそうとう貢ぐ気だったわね」
「おう、容赦ない」
「当たり前よ。きっとあいつ、外国でレディーファーストだけ学んで帰国したわね」
「そしてそれだけ盗まれてもどうでもいいと思っているのさ」
「金持ちって本当にくだらないのね」
「ハニーは容赦ないね」
男は苦笑して、伊達眼鏡を直した。
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