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□憧憬
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「クルートン、アンネ・クルートン!」
翌日、教師である初老の男の自分の名を呼ぶ声で少女は目覚める。
「はい!」
慌てて飛び起きて、アンネは前に出る。長い赤茶色の三つ編みが生き物のように二、三度跳ねる。午前中のテストがもう返ってきているようだ。
昨日夜遅くまで勉強したから、きっと良い点数だろう。アンネは心を躍らせて、教師の手から答案を受け取る。
そこに記された点数に、アンネは愕然とする。
「君はいつになっても、成績が伸びないな。今回も最下位だ」
「そんな!私、昨日は夜遅くまでべんきょうしていますし、毎日何時間もべんきょうしていますし……」
「言い訳はいい。次のテストで受からなければ、君は落第だ」
「そんな……」
「早く席に戻れ!」
アンネは席に戻ると、追い打ちをかけるように教師が呟く。
「全く、普通の勉強もろくにできないのに、よく人を幸せにする魔法を探していると言えるな」
少女は振り向いて何か言い返したいのを必死に隠した。
「人を幸せにしたいというのならば、私をここまで悩ませないでいてほしいものだ。それともそんなに愚かであるからそんな架空のものに溺れるのだろうか」
アンネは席に着いた。教師が言うことはもっともで、言い返すだけ無駄だ。それよりも、落第にならないようにしなければならない。
魔法を学ぶことが許される段位まではまだ遠いのだから。
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