short2

□alter Ego
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「ねぇ、聞いてる?」

「……何のこと?」


 彼女の頭から怪人が消えると、目の前には恋人である彼がいた。緑色のきれいな目は心配そうに色を陰らせている。



「具合悪そうだけれど、少し休む?」

「……うん」


 そういえば、何日も睡眠を十分にとっていない。彼は彼女の傍まで行こうとしたが、彼女は手で彼を制す。


「大丈夫よ」


 そろそろ決着をつけなければならない。彼女は悟る。怪人のことも。彼のことも。そして、自分の未来のことも。もう、結論を出すのだ。





 彼女はその日も歌劇場に向かった。怪人は、今日も舞台で歌っている。“オペラ座の怪人はそこにいる、お前の心の中にいるのだ”、と。

 彼女を見つけると、また舞台袖へ逃げる。彼女は昨日と同じように怪人を追って舞台まで走った。

 そこに置かれた薔薇を拾い、自分で胸に挿し、客席の方を向いた。怪人は2階席から彼女を見つめていた。

 怪人は彼女が見ていると知ると、客席からまた歌を再開する。


 彼女はそれを見届けると、劇場の舞台の上に倒れた。すると、すぐに怪人の歌が止まった。



 最後に恋人の声が、彼女の名前を呼んでいるのを彼女は聞いた気がした。




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