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□真実を探す男
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『真実を探している』
彼は行先を聞くと、それだけ答えた。
「真実?」
彼の何も映していなかったはずの真っ黒の瞳が、私が発した単語によってわずかに動いた。
「そう。それだけを探して旅をしている」
周りがピンク色のお花畑なのに対して、彼の真っ黒な服装は立体的な影のように浮いている。明らかに私の世界の不純物であったはずなのに、私は何の警戒心も抱かなければ、排除しようという気さえ起らなかった。
「どこから来たの?」
「そんなこと覚えてない」
こんな無愛想な奴と話す気なんておきないはずなのに、こんな無愛想な奴がそんなに長く話してくれるわけがないのに、私も彼もまだここで会話を続けていた。
「これからどこに行くつもりなの?」
「そんなの決まっていない。ただ急がなければならない……って何をする!」
「暇なら寄っていって」
「誰も暇などと言っていない。急いでいると言ったばかりだ」
彼の表情が動くのがおもしろくて、私は彼の腕を取った。
「じゃあ、私の真実を聞いて」
私がそう言うと、抵抗しようとした彼は動きを止めた。
「お前は真実を持っているのか?」
「真実の1つを持っているわ」
「真実は1つのはずだ」
「あら。真実を見つけていないのによくそんなことが分かるのね」
「それだけは知っている」
「そう。じゃあ、私の知っている真実がそれかどうか確かめることは必要なんじゃないの?」
「……」
彼は黙っていたが、抵抗する気はないようだった。しかし無表情だったはずの口元が少しだけ綻んだ。
「行こう」
私がそれに見とれていると、彼は私の手を引っ張って歩き出した。
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