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□僕と魔王と新学期
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事実は小説より奇なり。
誰がのこした言葉かは知らないけれど、ずっとそんなわけないと思っていた。だけれど、やっと最近になって、この言葉の意味が本当に分かるようになってきた気がする。
それは運命という形だったり。あるいは他の思わぬ形で突然やってきたりする。
戦いも魔法もモンスターもいないゲームの世界とはかけ離れた日常かつ、平和ボケしているとさえ思えるここ日本でもそうだ。勉強に追われて、人間関係とかこれからのこととかに悩む僕らもそう。……ずっと未来は僕らの手じゃどうしよもできなくて、関係ないと思っていたけれど。
でもそれは間違いで、やっぱり事実はそんな簡単じゃない。時にほんのささいなことで、すぐには気づかないことだってある。あるいは、時間が経ったら全然違ったものに見えるものだってある。
そう、例えばこんな風に……。
グラウンドでは何部だかは分からないけれど、男子生徒数人の声が響いていた。窓からのぞいて何部なのかをわざわざ確認する気はない。
僕にとっては、オレンジ色の光が廊下を照らしていることで十分だから。早く帰って今日こそ、もう何日も倒せないままでいるラストダンジョンの魔王を倒すのだ。そして、早く姫を救わなければ。
新しいクラスになって、新学期が始まっても、僕の日常は何も変わらなかった。友達ももちろんできなければ、話したいと思う人も見つけられず、授業中もずっとゲームのことばかり考えている。
もちろん授業が全部終わって、帰ろうとしている今も例外ではない。どうやって魔王を倒そうか考えながら、階段を下りていく。気持ちとは裏腹にその音の間隔が広い理由を、まだ僕は知らない。
いや、分かっているけれど考えたくないのだ。その音がこの世界には自分しかいないという幻覚を見せることには慣れてしまっているから、なおさら。
それを見つけたのは、そんないつもと何も変わらない平凡な日常のことだった。