※正ちゃんとスパナの子が綱吉さんパロ







「うう…っ、可愛い…。可愛いよ!可愛いすぎる!やっぱり天使だったんだね僕達の綱吉は!スパナ!カメラ早くっ!」
「正一、興奮しすぎ。確かにツナヨシは可愛いけど」
「正ちゃん、ほっぺがりんごみたいだよ!」

感激に顔を真っ赤にしたまま、正一はスパナから受け取ったカメラを構えて瞳をうるうるさせた。
カメラに映るのは、スパナと手を繋いでニコニコと満面の笑みを浮かべる愛しいわが子の綱吉。
愛らしい笑顔に天真爛漫な表情。
本当に天使だ。天使の微笑みとはこのことだ。
この子こそが、手塩にかけて育ててきた天使に違いないのだ!
正一はまさしく親バカだった。親ばかの極みだった。

「よし次はクルって回転してみて!そう!ああああ可愛いっ!じゃあ次はぷうって頬膨らませてみようか!ああああ可愛い食べちゃいたいなもうっ!」
「正一、気持ち悪い…」

はしゃぎまくって、まるでカメコのようにバシャバシャと写真を取りまくる正一と、そんな正一にドン退きのスパナ。
お揃いの指輪を薬指にしている2人も、今日は珍しくきちっと正装に身を包んでいる。
今日は、綱吉の小学校への入学式だった。
そのために、この住宅街に一ヶ月前に引っ越してきたのだ。

(この世界に天使って本当にいたんだなぁ…)

ピカピカのランドセルに、ピカピカの可愛い制服を着ている綱吉がそこいるのだから、そりゃ親バカの正一の興奮はいつもの数倍だった。
写真を撮り始めて、もうすでに10分が経過しようとしている。
さすがの綱吉も、飽きて欠伸を始めてしまう始末だ。(でもそれさえも可愛いと激写しまくるのが正一だったが)

「ああ、綱吉も今日から小学生なんだね…。何だか感動的だよ」

やっとカメラを降ろした正一が、今度は声を震わせる。
綱吉の制服を直してやりながら、スパナが薄く笑みを浮かべた。

「まだ泣くなよ、正一。まだ始まったばっかりなんだからな」
「でもさ、僕達の宝物がまたこうして新しい一歩を踏み出すなんて…感激だよ!」
「本当、正一はいつでも大袈裟だ」

困ったように笑って、スパナが正一にハンカチを投げる。
けれどもちろん、嬉しいのはスパナだって一緒で。
スパナは綱吉の頭を撫でながら、少し潤んでいる気がする瞳で綱吉を見つめた。

「友達たくさん出来るといいな、ツナヨシ」
「うんっ!だから、正ちゃんなかないで!」

結局おいおいと声を上げて泣き出した正一を、綱吉が心配そうに覗き込む。
今度はそんな正一の頭をよしよしと撫でて、スパナもおかしそうに笑って正一を覗き込んだ。
絵に描いたような幸せな家族が、ここにある。


「それで、三人で撮らなくていいのか?正一」
「あ…そうだそうだ!泣いてる場合じゃなくて、ちゃんと家族で写真撮らないとね!よし、セルフシャッターで…」

カメラを台に設置して時間を設定してから、正一が2人の元へ戻る。
綱吉を真ん中にして、笑顔の準備は万端だ。

「みんな、そろそろシャッター降りるよ!3、2、1…

正一の声通りに、パシャッ、とシャッターが降りた瞬間。
それを見計らったかのように、綱吉の隣に滑り込んできた影。


「つなよしくん、むかえにきたのー♪」
「おぎゃああああああ!!」


一瞬の間の後、顔を真っ青にして絶叫したのは、正一だった。


「正一、耳痛い…」
「ぎゃあああああ!どどどどこからいつの間に…っ」

綱吉の隣でピースして笑顔を作っていたのは、綱吉とお揃いの制服を着て、ちゃっかり綱吉の手を握っている少年。
正一はその少年を見つめて、愕然と声を張った。

「びゃ、白蘭君っ!」
「うん、おはようなのー♪」

ニコッと屈託のない笑顔で正一とスパナに手を振ってくる彼は、お隣の六道さん家の息子、白蘭君だった。
何の仕事をしているのか一切わからず、いつ何回見ても怪しさしか感じさせない六道さん一家だ。

「びゃくらん、おはよう!」
「つなよしくん、今日からボクといっしょにいくの!」
「うん!」
「ちょちょちょちょっと待ったああああ!」

勝手に進んでいく子供達の会話に、正一が割り込む。
その顔は本気だ。

「白蘭君!そういうことは勝手に決めないでくれるかな!?」
「つなよしくんがいいっていってるのに、なにかもんだいあるの?正チャン♪」
「(くっそ生意気なぁ〜!)そういうことはね!親の了承が必要なんです!」
「へぇ?そんなりょーしょーがひつよーだなんて、はじめてきいたなぁ。ぼくのパパはいいっていってるの♪」
「うちの了承も必要なんですっ!!」
「正一、大人気ない」
「スパナは黙ってて!」

子供相手、しかも綱吉のお友達相手にこんなに鼻息を荒くして、明らかに正一の様子がおかしい。
正一をなだめるように、スパナが優しく背中を撫でながら囁いた。

「何でそんなに目の敵にするんだ?ツナヨシのお友達、だろ?」
「スパナはあの子の恐ろしさを知らないから、そんな悠長なこと言ってられるんだよ!」
「おそろしさ?」

正一の思わぬ言葉に、スパナが目を丸める。
正一は己の身を掻き抱いて、ブルブルと震え始めた。

「この前、僕は見ちゃったんだよ…」

おぞましい記憶が蘇る。
正一だって最初からこんなに白蘭のことを警戒していた訳じゃない。
あれは、いつの間にかすっかり綱吉と仲良くなっていた白蘭が家に遊びに来た時のことだ。
2人におやつを運ぶために、正一が綱吉の部屋を開けた瞬間。

「普通に遊んでると思ったのに!何故かうちの綱吉を脱がせて床に四つん這いにさせて首に何か付けようとしてたんだよこの悪魔の申し子はあああああ!」

あの明らかに異常な光景を思い出して、正一が爆発した。
よく見えなかったけれど、白蘭が手に持っていたのは首輪ではなかっただろうか。
いや首輪だった。絶対首輪だった。
何で幼児同士の遊びで首輪を持ってくるんだ。しかも何でそのリードをお前が持っているんだ。
その上、何故か服を脱がせて四つん這い。
どう考えてもおかしいじゃあないか!意味がわからない。
あのまま放置していたらどうなっていたのかなんて、想像もしたくない!

「だからダメなんだよこの子だけは…!うちの綱吉の明るい未来のためにも!」

正一の直感が言っていた。
この子はめちゃくちゃ危険なのだと。
これ以上、マイエンジェルをこの悪魔の申し子に近付けてはいけないのだと。

「でも、本人達が仲良くしてるのをウチ達が無理やり引き裂くようなことは…」
「大丈夫だよスパナ!」
「ん?」

ここで180度真逆の、自信満々な正一の表情。
スパナが首を傾げた瞬間。

「ツナー!おっはよー!」

響き渡る明るい声。
正一がすぐに振り返った。
希望に満ち溢れた瞳をして。

「ディーノ君っ!!」
「おはようございます!」

礼儀正しく金髪の眩しい、またもや綱吉と同じ制服を着た少年。
彼はお隣の雲雀さん家の息子、ディーノ君だった。
雲雀さん家は純和風の豪邸を持つ良家さんだ。

「礼儀正しくて明るくて爽やかで優しくてかっこよくてあの雲雀さん家の息子さん!もうさいっこうじゃないか!非のつけどころなし!彼になら綱吉を安心して任せられるよスパナ!玉の輿だよ安心の老後!」
「最後本音出てるぞ、正一」
「とにかく!綱吉の親友枠はディーノ君が予約済みなんだからね!白蘭君なんて出る幕なし!」
「やっぱり大人気ない、正一」

けれどもう、正一の目にはディーノと友好関係を築いて明るい未来を行く綱吉の姿しか映っていない。
明るい未来に、白蘭の姿など不要に違いないのだ!
ディーノが早速、白蘭が掴んでいる手とは逆の綱吉の手を掴んで引いた。

「ツナ!オレといっしょにいこうぜ!」
「だめ!つなよしくんはぼくといくんだもん!もうやくそくしたもん!」
「オレといくよな?ツナ?」
「えっ!おれは…むぐ!」

三人で一緒に行こう!と言おうとした綱吉の口を、正一が手の平で塞いだ。

「ディーノ君と行きなさい綱吉!白蘭君、残念だけど今回は諦めてもらって…」
「やーなのーーー!つなよしくんはぼくのなのーー!」
「ぼくのじゃないーーー!」
「子供相手にムキになるな、正一」

スパナになだめられながらも、正一はどうにか綱吉から白蘭を引き離してディーノと登校とさせようとしたのだが、結局白蘭がガッシリと綱吉にひっついて離れず。
その恐ろしい執念に、仕方なく、白蘭のくっついたままの綱吉の背中をディーノに向けて押すしかなかったのだった。

「(今日はもう仕方ない!)綱吉!さぁディーノ君と一緒に学校…

いってらっしゃい!とひきつった満面の笑みで言おうとした正一に走ったのは、激しい悪寒だった。
何て忙しい朝なんだろうか。
しかしそれは正一だけでなく、全員に走ったらしい。
まるで時が止まったかのように、全員が固まっている。
異質な空間。


「跳ね馬………群れるなって、言ったよね…?」


ズゴゴゴゴ…と地響きを起こしそうな重くて恐ろしいオーラ。
それを纏って隣の高い竹垣からこちらを覗いていたのは、お隣の雲雀さんだった。
その手に、トンファーを構えて。

「ぎゃああああーーー!!」

三人は見事に、初日から遅刻したという。


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「ぎゃああああああ!!」
「またどうした、正一」

三人を無事に送り出し、雲雀さんに殴られた場所に互いに絆創膏を貼っていた最中。
正一は今日何度目かわからない絶叫をした。

「朝撮ったこここの写真っ!!」

早速現像した、大量の写真達。
その写真達に、もれなく全てに見事に。
綱吉の両隣で笑みを浮かべている、お隣の六道さん夫妻が写っていたのだった。

左には分け目がひとつ、右には分け目がふたつ。
左には悪趣味な杖を持った魔法少年(という歳でもないけれど)、右にはトランプマン。
何だこの呪われた心霊写真は。しかもひどく楽しそうに、全部違う決めポーズをきっちり決めているのがものすごく腹立たしい。
クフフヌフフ…あの気味の悪い笑い声が頭の中で響いて、正一に再び悪寒が駆け巡った。

「引越しだーー!綱吉の明るい未来のためにも引越しだスパナーー!ここは呪われてる!明らかに呪われてるねよねっ!?」
「ああ、ローン払い終わったらな」
「それ何十年後の話だよ!!」

マイホームローン、残りあと30年。
入江さん家の幸せ家族計画は、これから前途多難なようです。


おわり

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