第一弾<book>

□藤【碧っち。】
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正面から互いの手を合わせ、交互に指を差し込む。

きゅ、とその甲を引き寄せれば簡単に重なる手のひら。

ひと回りも大きさが違うのに不思議だ、…とひたり見つめれば、視界の中でグレイの指がすっと流れた。



「なに見てんだ?」

「んー…?大きいな、と思って」

「何回言ってんだよ、それ」



掴まえていない方の手がひらひらと頭上で踊り、思わず目だけでその動きを追う。

くくっ、と喉を鳴らし笑うグレイを無視して追い続ければ、突然舞い降りてきた手にむぎゅ、と鼻をつままれ。

ルーシィが無言のまま頬を膨らませ訴えれば、微塵も焦る様子のないグレイが上辺だけの謝罪を口にして挟んでいた指を離した。



「潰れる…」



解放され、自由になった鼻を手でさすりながら上目遣いにグレイをじっと見つめる。

もちろんこれはルーシィがグレイへ、故意に仕掛けた仕草。

そしてグレイは当然それに気付いていて、―…ふ、と口元を綻ばせながら手を差し伸ばした。



「最初から潰れてるんじゃねーの?」

「失礼しちゃうわね」



言葉を紡ぎながら、お互いに空いている手を首へと絡ませる。

グレイはルーシィの金糸を指先で遊びながら、中に隠されている柔らかな耳朶を遊び。

ゆっくり首の裏側へと回りこんだ手がその温もりを確かめようとするかのように張り付き、筋を下から上へと辿る。

ぞくりと粟立つ背筋にルーシィは薄く瞼を開け、グレイの漆黒の髪を愛おしそうに掻き揚げた。



立てられた指先が、かりっと引っ掻く。

普段ならばどうという事のない行為さえ、全てが体の奥底に直結して。



繋いだ手からじわじわと滲入してくる熱と、体から奪い取られていく熱。

お互いにどちらの体温が伝わっているのかさえ分からなくなるような、歪んだ時間。

ふっ、とルーシィが息を吐き出したのを合図にグレイがぐっとその柔らかな体を抱き寄せ、今まで手で触れていた場所へ唇を押し当てた。



「…くすぐったい」

「んー?気のせいだろ」

「ヤダってば」



ぐいっと押し返された頭を無理に戻そうとはせず、一瞬だけ視線を合わせて再び寄せる。

今度は唇で触れるのではなく、肩口に鼻頭を預けたまますりっと頬へ。

直接肌から伝わる柔らかさと甘い香りにグレイは動きを止め、背中へと回した手でルーシィの髪を手繰り寄せた。



頭が後へ傾く事で晒された白い項と、汗ばんだ首筋。

力なく開かれた唇からこぼれ落ちるのは、行き場を無くした熱。



「なぁ、ルーシィ」

「なに…?」

「オレの勝ち、だろ?」



告げられた問いの力強さに、ルーシィは静かに笑う。

顔の片側だけに向けられた視線。

痛い程伝わってくるのは、その瞳の熱さと。―…より深く絡め取られた指先。



「さぁ、どうかしら?」



繋いだ手にきゅっと力を込め、グレイの手の甲をとん、と叩く。

ルーシィからの合図にグレイは“意地っ張りめ”と笑いながら、それでも同じく返事をして。

未だ離れたままだった手も重ね合わせ、顔を寄せる。



「まだこれからよ」

「強気だな」

「当然」



これは駆け引きなどではなく。

想いを表す為の戯れ。



“スキ”なんて簡単な言葉だけじゃ、伝わらないから。



「どっちが先に折れるかな」

「…どっちかな」






本当はもうアナタに夢中だなんて。

悔しいから、絶対に言わない。




End
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花言葉:「あなたに夢中」「至福のとき」

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