第一弾<book>

□ざくろ【あまき様】
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「「・・・・・・」」


ザァザァとスコールのような大雨。
前も後ろも見えないどしゃぶりの中、とにかく雨を避けるため走った。
だいたい今日は厄日か。
たいした仕事ではないと聞いていたのにとんだトラブルに巻き込まれた。
もはやそれを誰のせいとは言わない。
だって自分のせいではないと言い切れないし。
とにかくそんなこんなで魔力を消耗し、挙句にこの大嵐。
まぁ自分よりももっと可哀想なのは。
チラリと横を見る。
金色の髪の毛からポタポタと雫を垂らし、はぁぁとため息をついた。
わからんでもないからそこは見ないふりをしておいた。


「ねぇグレイ」


疲れ切った声が自分の名を呼ぶ。
きっと彼女も相当魔力を消費したのだろう。
いつもならすぐに出てくるメイドの精霊やキザったらしい奴も顔を出さない。


「ナツとエルザは?」

「さあな」


聞いている本人も心配こそしているがあの二人ならばどうにかなるか、というつもりでいるのがわかる。
なんせ自分もそのクチだ。
俺たちがチームの中でこういう予想外の展開の時に特別気に掛けるのは専らこの新人魔導士。
だから必死で手を引いて見失わない様にしてこの洞窟まで走って来た。


「明日になればどうにかなるだろ」

「見習いたいわ、その楽天的な考え。」


憎まれ口を叩きつつ疲れ切ったその身体を、洞窟の壁を背に並んで休ませる。
外は大雨雷のおまけつき。
中は先の見えない暗闇と限りない無音。
ぶるりと無意味に肩が震えた。


「・・・はは、やっだ〜グレイったら怖いの?」

「そういうルーシィも顔引き攣ってる」

「「・・・・・・」」


どちらともなく身を寄せ合う。
とにかく嵐が過ぎて夜が明けるのを待つしかない。
そしたらどうにかしてナツやエルザを探し出そう。
冷静にそう考えてる間も腕にルーシィの肩が当たっている。
なんだか無性に舌打ちしたい気分になった。


「とにかく寝て魔力を回復させなくちゃ!」

「そうだな」


と返事はするものの雨に濡れたルーシィはやたらと色っぽい。
服も透けてるのがわかる。
いかんいかん俺はこんなときに何を考えてるんだしっかりしろ獣か。
グルグルとなってタラタラと汗が流れてきた。


「おやすみグレイ」

「──っ・・・」


当たり前のように頭を預けてきたルーシィに思わず声をあげかけて思い留まる。
よっぽど疲れていたのかすぐに眠りの体制に入るルーシィ。
そうだよなコイツはつまるところお嬢様ってやつだったんだよな。
常識人のくせにどこかぬけていて危機感というものが低すぎる。
聞こえぬよう深く長くため息をつく。
つーか俺だってルーシィのことは仲間としか見てないし。
チラリと視線を横顔(胸や足や胸や足や)に向ける。
まぁ可愛い方だとは思うし実際顔はタイプだし。
でもやっぱりなんといってもチームだし妹みたいなもんだし。
スースーと完全に寝入った合図が聞こえると同時に何となく手を握ってみる。
一緒にいたら楽しいし良い奴だしだからつまりなんだ?
結局どういうことなんだ?
モヤモヤと答えがあるようなないような。

「・・・あほらし。寝よ」


悶々とした考えを追っ払って手を離し腕を組み目を瞑った。
明日は明日でハードな1日が待っていることだろう。






チュンチュンと小鳥がさえずり絵に描いたような爽やかな朝。
ボーとする頭を何とか覚醒させる。
体はあちこち痛くて気分は最悪だ。


「起きたか?」

「グレイ」


おはようと言いかけて右手の違和感に気付く。
視線を下側にずらすと恋人繋ぎをしている自分とグレイの手。


「んなっ!ああああああのこれっ!!」

「ああ?ああこれか」


パッとグレイが手を離す。
そして底意地の悪い笑みで言う。


「よっぽど怖かったみたいだなぁ?」

「なっ!ふん、グレイが心細そうだったから握ってあげたのよっ!」

「そりゃありがとさん」

 
穴があったら入りたいとはこのことだ。
壁に頭を打ちつけたい衝動を抑えながらふとグレイに視線を戻した。


「グレイ、なんかクマがすごいわよ?」

「・・・あーちょっと疲れがとれてねぇかも」

「アンタ達馬鹿みたいに魔法使いまくってたもんね」

「馬鹿っていうな。そしてナツと一緒にすんな」

「よし!ここは私が一肌脱いであげる!」

「頼むから聞け」


ウキウキと洞窟の外に出たルーシィの後ろ姿を見送る。
なんでか一睡もできなかったことは胸に秘めておこう。




まだ知らないままの愛だから
(・・・グレイ)
(なんだよ、ロキ。つーか肩を叩くな)

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