第一弾<book>

□リナリア【沙羅様】
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【リナリア】



気を付けろよ、と笑って手を振って華奢な背中を見送る。

見えなくなってから漏れる小さなため息。


「くそっ。今日も言えなかった」



今まで一緒に居たくせにもう会いたいとか。
らしくねぇのはわかってる。

ため息を吐く代わりに見上げた空は俺の気持ちとは裏腹に月が綺麗に光ってやがった。


家へと踏み出した足は数歩も動かぬうちにまた止まり。
そんな自分にもう苦笑いしか浮かばねぇ。

それでも、歩いては止まりを繰り返して少しずつ家へと近付いていく。








◆◇◆◇◆









窓際に頬杖をついて小さな吐息を吐き出した。

見上げた先には強く光る大きな月。


視線は月を捕らえてるのに、頭に浮かぶのは違うもの。


小説を書いてても、頭の中を占めるのはグレイのこと。
ご飯を食べてても、お風呂に入っててもふと浮かぶのは、ナツとじゃれてる姿とか、あたしに向けられるちょっと意地悪そうな笑顔とか。


ぼうっと月の光を浴びていたら聞き馴れた足音が聞こえて。

その姿は見えないのにあたしは外へと駆け出した。







◆◇◆◇◆◇







ルーシィの住む部屋の灯りが見える頃には俺の息は上がっていた。

家へと向かう筈だった足はいつの間にか通い馴れた道へと向きを変え、なかなか進まなかった足は自然と早足に、次第と走るように変わって。


もう、自分につく嘘に疲れちまった。
仕方ないとか、もう少しだとか押さえきれない自分の気持ちに嘘をついて引き延ばして。



こうしてルーシィの部屋へ向かうことはいつもと変わらないはず。

ただ、駆け足になる体と心はきっといつもと違う。

だから……




もうすぐだ。
そう思ったとき、部屋にいるだろうと思っていたルーシィが扉から顔を出した。

一瞬驚いて足を止めたが、何故だか不安そうな顔をするルーシィに自然と足が動く。


つられるように駆け出したルーシィを両腕で抱き止めるように腕の中に閉じ込めた。



「どうしたんだよ」
「わかんない。でもグレイの足音が聞こえたから」



しがみつくように背中に回された腕に抱き締める腕に力を込めてその首筋に額を埋める。




「好きだ」



自然に口に出た言葉は、あれほど言いたくて言い出せなかった言葉で。




「うん」




腕の中で小さく頷いたルーシィの髪にキスを落とすと、背中のシャツを握っているルーシィの手がゆらりと揺れた。




リナリア
《 私の恋を知ってください 》

 

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