第一弾<book>
□向日葵【沙羅様】
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なんでだろうな
どんなに人混みの中に紛れようと
どんなに騒がしいところに居ようと
いとも簡単に見つかる姿
耳に入る笑い声
探さなくてもわかってしまう
まぁ理由なんざ、自分が嫌になるくらいわかってっけどな
◆◇◆◇◆
「なぁ、ルー……?」
振り向いて大きく溜め息を吐いた。
なんで居ねぇ。
さっきまで隣歩いてたろうが。
ひとのシャツ引っ張ってアレが可愛いだのコレが欲しいだの騒いでたじゃねぇか。
なんでものの1、2分で居なくなれるんだよ!
「…たく。しゃーねぇな」
一歩踏み出しながら、周りを見回す。
取り敢えず映る視界の中には居なかった。店に入るなりしていれば当たり前か。
視線を巡らしながら来た道を戻っていく。
いつもなら、もう見つかっている筈だ。
誰かに絡まれてるとしても、誰かと話していたってルーシィの声は俺に届く。
なのになんだ?
なんで見つからねぇ!?
いつの間にか歩いていた筈の足は駆け出して、次第に息が上がる。
辺りを見回して見つけた金髪に走り寄っては途中で違うことに気付いて足を止める。
そんなことを繰り返しているうちに、街の入り口までたどり着いた。
「クソッ」
しゃがみこんで頭を抱える。
なんで目を離した?
こんなことなら、シャツを掴む手を俺が握っててやりゃあ良かった。
いつも簡単に見つかるなんて思ってた俺がバカだった。
アイツが俺の方を見ててくれたから。今更そんなことに気付くなんて。
思い返せば、いつも見つけた直後に必ず目が合った。俺が声をかける前にルーシィが振り向いて笑ってた。
「クソッ!!」
もう一度呟いて顔を上げる。
大きく息を吐いて街中へと駆け出そうとしたとき、こちらへと走り寄ってくるルーシィが目に映った。
「やっと見つけた」
息をきらせて目の前まで走ってきたルーシィがそのままの勢いで頭を下げる。
「ごめんなさい!!」
「……へ?」
「勝手にいなくなったから」
「…いや」
顔を上げたルーシィが困ったように言葉を続ける。
「いつも簡単に見つかるから、安心してたの」
呼吸を整えながら傍まで来たルーシィが俺のシャツを掴む。
「グレイの声も姿もいつもすぐ見つけられるから。でも探しながら気付いたの。グレイが見ててくれたからなんだって」
シャツを握る手を掴んで腕の中に引き寄せる。そのまま強く抱き締めた。
「ちょっ!?グレイ!みんな見てるってば!」
あたふたと腕の中で暴れるルーシィーを許さないとでもいうように抱き締める腕に力を込める。
「……良かった」
「…グレイ」
「びっくりした。見つかんなかったらどうしようかと思った」
「ごめん…」
ルーシィの髪に頬を埋めて、やっと安心した。
ルーシィの小さな手が背中のシャツを掴む。
「すれ違うって怖ぇな」
「うん」
「ありがとな、見つけてくれて」
「…うん」
二人並んで歩き始める。
ルーシィの指を絡めるように手を繋いで。
「今度からシャツじゃなくて、ここな」
耳を赤く染めたルーシィがコクりと頷くのを確認して繋いだ手をぎゅっと握り直した。
時折見上げてくるルーシィを見つめ返して笑い合う。
例えばそれが俺らしくなくたってかまわねぇと思う。
お前だけを見ていたいと思うのも俺の一部だからな。
向日葵
《 あなたを見つめる 》