第一弾<book>

□金銀葛【ナギハラミズキ様】
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「あ、あった。これじゃない?」

ひんやりとした、洞窟の中。
淡く金色の光を放つ、花のような結晶を指して、ルーシィが駆け寄る。

「んじゃ、とっとと持って帰るか」

言って、グレイが両手を組んで。
造り出した氷の中へ、その結晶を閉じ込めた。



――毎度のごとく家賃の支払いに悩んでいたルーシィが、リクエストボードから見つけた依頼は、洞窟に咲く光る花を採って来て欲しいというもので。

本当なら、いつもの『最強』メンバーで仕事に行くはずの予定が、エルザに別の急な仕事が入って、取り止めになって。
代わりに行けそうな仕事を探して目を留めた、その依頼書に書かれてた花は、洞窟から持ち出して外気に触れると光を失う結晶のことらしかった。

外気に触れさせないように持ち帰るには、と考えるまでもなく。
ちょうど、その手のことが得意そうな人物が、すぐ傍に居た。

かくて、ルーシィとグレイの二人で『光る花』を採りに、この洞窟へとやって来たわけなのだけれど。


無事に目的を果たした、その直後。
氷漬けにした結晶を拾い上げようと近付いて、ふとグレイが足を止めた。

視線の先は、結晶の花が咲いていた後ろの壁に彫られた文字。

「――コレ、古代文字じゃねえか」

「何て書いてあるんだろ……」

ルーシィも興味をそそられて、文字の羅列を指で辿る。

こんな場所に書かれている理由も、その内容もわからないけれど。
もしや、この結晶と何か関係があるのだろうか――

とはいえ、読めないものはどうしようもないし。
何かの警告な可能性もあるけれど。
だったら、その時はその時で、考えるしかない。

今は結晶を持ち帰るのが先決、とルーシィがそちらへ視線を戻せば。

氷の中で、金色に光っていたはずのそれが、白い光に変わっていた。

それと、同時に。

「……なに……、これ?」

ルーシィの右手の小指に、紅く光る細い糸が絡み付いている。
そして、緩やかに長く伸びている、その糸の先は。

「え、……」

思わず、思考が止まる。

未だに壁の前で考え込んでるグレイの、左手の。
やっぱり小指に、ルーシィと同じ紅い糸が絡んで、いて。

二人の間で、つながっていた。

(なんで、……なに、これ、なんなの、……これ、だって、まるで、)

ぐるぐると思考がまわる。


――運命の赤い糸、みたいだなんて、そんなこと。


「……? どうした?」
「えっ、あっ……、」

不意に、こっちへ向いたグレイと目が合って、うろたえるルーシィ。
訝しそうに眉根を寄せて、壁へ左手を突いた、グレイも。

「……なんだコレ」

そこで紅い糸に気が付いた。

「何かの魔法か?」
「……わかん、ない……」

グレイが氷でナイフを造って、糸を切ろうとしてみるも、変化がなく。
それなら、とルーシィが呼んだキャンサーのハサミでも、無理だった。

 
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