第一弾<book>
□イカリソウ【ナギハラミズキ様】
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ギルドへ顔を出すと、つい酒場の中で視線をめぐらせるのが癖になってきた。
無意識に捜しているのは金の髪で。
「今日は……まだ来てねえのか」
カウンター席にもテーブル席にも見慣れた姿がなくて、少しだけ気分が下がる。
(……って、会わねェと落ち着かねえとか重症すぎんだろ)
思わず苦笑したくなりながら、カウンターの向こうに居るミラジェーンへ飲み物を頼もうと、グレイが口を開く、と。
「ルーシィならさっきまで居たわよ?」
「……あ?」
先にそんなことを言われてしまって、面食らう。
「あら。来てないってルーシィのことじゃないの?」
にこりと笑いながら言葉を続けるミラ。
さっき独りで呟いたはずの声が、どうやら聞かれていた、ようで。
「いや、そうだけどよ……」
グレイは眉根を寄せて、今度こそ苦笑したい気分をそのまま表情に出した。
たぶん、きっと、彼女には色々見透かされてしまっている、のか。
そんな楽しげに笑みを浮かべて言われると、どうにも決まりが悪い。
そのミラが変わらず笑顔のままで言うには、読みたい本があるのだと言ってたらしく。
だとすれば、おおよその居場所の見当はつく。
グレイは酒場から離れて、ギルドの中にある図書室へと足を向けた。
――結論から言うと。
「あれ、グレイ? どうしたの?」
部屋の中に居て、そう声をかけてきたのは、レビィだった。
奥の本棚には誰も見当たらない。
どうやら、ここに居るのは彼女だけらしい。
「あー……と……、ルーシィ来てねえ、か?」
読みを外したかと思いながらも念のため、訊ねてみれば。
「ルーちゃん? さっきまで居たよ?」
(……オイオイ)
読みは合ってた。
合ってたけれど、遅かった。
知らず溜息を吐いたグレイへと、レビィは小さく首を傾げて。
「エルザに話があったんだ、って出てったからギルドの中には居ると思うけど」
「……おう」
今度はエルザかよ、とグレイは内心でもう一度、溜息を吐いた。
「ミラちゃん、エルザ知らねえか」
ひとまず酒場まで戻って、そう訊ねる、と。
「あら。ルーシィ捜してたんじゃなかったの、グレイ?」
「だから捜してんだろ今。とにかくエルザ……」
「――私がどうかしたか?」
不意に横から聞こえたのは、そのエルザの声で。
嫌な予感がしつつもそちらを振り返れば、……居るのはエルザだけだった。
「いや、その……ルーシィと会わなかったか?」
「? ルーシィなら、さっき会ったが……?」
(オイオイオイ……)
思わず、肩を落としたくなってしまう。
タイミングが悪いにもほどがあるだろう……
「明日行く仕事のことで少し調べておきたいことがあったのでな。
ルーシィとも資料室で会ったんだが、……」
「資料室だな?」
そこまで聞いたところで、グレイが慌しく離れていって。
「……いや……もう居ないと思うが……
なんだ、グレイはルーシィに何か用事だったのか?」
「そうなんじゃないかしら」
ふふ、と笑うミラは、やっぱり楽しそうだった。