第一弾<book>

□アスチルベ【彼方様】
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グレイの手のひらが好き。

あの大きくてごつごつした手で、頭をぽんってされるのがたまらなく好き。



でもそれは恋心から、とかじゃなくて。
ただ安心する。それだけだった。



…それだけの、はずだったのに。




「グレ…イ?」

「…何」

「や、えと…ち、近いからっ」

「あ?別に普通だろ…つか、この状況でそんなこと言うなっての…」




今の状況、狭いロッカーにふたりきり。
でもそれはいわゆる漫画とかでよくある甘い展開とかそんなんじゃなくて。




潜入系の仕事で正体がバレたあたしたちを追う追ってから逃れるために仕方なく…といったなんともまぬけなものだった。





「はあ…何でこんなことになったんだよ…」

「グレイがいきなり脱ぎ出すからでしょう!?」

「…脱いだもんは仕方ねぇだろうが」

「少しは我慢しなさいよ…っしかもボスの前で脱ぎ出すなんて…おかげで胸の紋章丸見えだったじゃない!」

「ちょ、バカ大声だすな…!」





かっとなって大声を出したあたしの口をグレイが慌てて塞ぐ。
あの、大きな手のひらで。





「んー…っ!?」

「だから静かにしてろって…!」





(ち、近いってば…!)



必然的に近くなった距離に恥ずかしさから暴れだすあたしを、軽くチッと舌打ちをして、身体ごと押さえつけるグレイ。



狭いロッカーでは満足に身動き出来ないため、はたから見たらそれはグレイに抱き締められてる状態で。




心臓が壊れそうなほどドキドキしてる。
グレイに聞こえちゃいそうで、怖い。





「なあ、ルーシィ…」

「っ!」




不意にそっとグレイが髪を撫でた。
そんな何気ない動作にもあたしの心臓は敏感に反応してしまう。






…知らない。
そんな触り方、あたしは知らない。







いつも安心するその手のひらが、今は安心できなくて、ドキドキが身体中を支配して動けなくなる。


グレイの掠れた声が、吐息が、耳に響いて恥ずかしい。


どうにか距離を取ろうとしても、それすら許さないかのようにグレイの力が強まって。




隙間なく密着した身体から聞こえる鼓動はあたしのものか、それともグレイの――?







「、あー…もう限界…」

「え…?」





グレイの手が、頬を包み込む。
もうほぼ距離なんてないはずなのに、その距離すら埋めるようにグレイが近づいて……








「…、ルーシィ出るぞ!」

「…え?」




言葉を理解する前に、いきなり視界に飛び込んだ光に目が眩んだ。


訳がわからなくてグレイを見上げると、苦笑したグレイがあたしの手を引きながら答える。





「バレたんだよ、ここにいるのが」

「ええ!?」

「だから逃げるぞ、ルーシィ!」




不意に、いたか?という声が少し離れた場所からから聞こえた。




はっとなり、グレイに振り返ると、あたしの不安を読み取ったのかぽんっと、グレイの手のひらがあたしの頭に乗せられる。


それはいつもの、あの安心するグレイの手のひらで。




「大丈夫だ。信じろ」

「…うん!」




力強く頷いたあたしに、グレイがふ…と笑う。




「…お前だけは、何があろうと守ってやるよ」




それはもう、みたことないくらい優しく、甘い笑顔で。






――ドクン…ッ



「…ん?どうした?なんか顔赤いけど」

「っな、何でも、ない…」





胸の奥に灯った小さな熱を誤魔化すように、あたしもいつものように笑いかけた。






"安心"とは違うこの気持ちに、あたしが気づくのは……もう少し後のこと。




アスチルベ

(あれ?ふたりとも依頼は…?)

((…あ゙…))







アスチルベ:恋の訪れ

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