第一弾<book>

□クルクマ【彼方様】
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ここはギルドのカウンター。
…ただいま宴会真っ最中。



「…飲み過ぎじゃねぇか?」

「らーいじょーぶらってー」

「…全然大丈夫じゃねぇだろ」





呂律の回らない声で返されるその言葉を信じられるはずもなく。


目の前でひらひらと揺れる白い掌に、俺は重くため息を吐いた。



「今日はお祝いなんだ、少しくらい多目にみてやれ」

「エルザ」

「久しぶりにまともに依頼を達成出来たからな…嬉しいんだろう」




確かに何も壊さずに依頼を達成出来たのは本当に久しぶりだけど…。



よほど嬉しかったのか、最初から飛ばしていたルーシィはもうすっかり出来上がっている状態で。




さすがにやばいだろうと思って酒を取り上げると、目に涙を溜めて睨んでくるから止めようにも止められない。



つかもう3時間は飲んでんだけど…酒弱いくせにぶっ倒れずに飲み続けてるのが不思議なくらいだ。




「えへへー今日は飲むぞぉー!」

「まだ飲むのか!?」

「らって今月初めて報酬丸々もらえたんらもんー」



えへへ、とにこやかに笑うルーシィに不覚にもドキッとしつつ。


そういえば、こいつが笑うの久々にみたかも…


きっと赤くなっているだろう顔を隠しながら、最近のこいつはしかめっ面ばかりだったなと思い出していると。


――ギュッ…



…え?



不意にぎゅっとルーシィの白い手が、俺の右手を柔らかく包んで。


「それもこれも全部グレイのおかげよ」

「は…え?」



急に俺を誉め始めたルーシィに、訳がわからなくて首を傾けると。

…今までにないくらいの最上級な笑顔で



「…大好き」



…なんて上目遣いで囁かれた。



「…っ!」


甘すぎるその声に、身体中の血液が沸騰するんじゃないかってくらい熱くなる。



…それは反則すぎねぇか!?



普段からは想像つかないぐらい大胆なルーシィに、大好きの言葉に。

大して飲んでもいないのに、急速に酔いが回ったようにぐらぐらする。



きっとその"大好き"も報酬のことなんだろ?
分かってる、分かってるんだよ。


でもな、こっちからしたらそれは紛れもない告白で…つか好きな子からそんなこと言われて響かない男がいるはずもねぇっつーか…



頭の中でぐるぐると回るルーシィの声が、俺の思考回路を麻痺させていく。


必死に冷静になろうとしてんのに、ルーシィが嬉しそうに俺の手を握って。

しかもそのまま掌にキスなんかしてくれちゃったりするもんだから俺の理性はもう決壊寸前で。



自分の魔法で冷やしてみるけど、そんなもんじゃ効かねぇってほどに身体が熱を発する。



今俺煙とか出てんじゃねぇの…?



けど、そんな俺を余所にまたグラスに手を伸ばすルーシィは、一体これで何杯目になるのかわからない酒を煽って。



「ミラさーんおかわりぃー」

「っておい!お前、いい加減やめろって!」

「んふふーグレイも飲むー?」




か…会話になってねぇぞ、おい。

そんなぐだぐだに酔ったルーシィにひとつため息を吐いて。

時折、酔ったルーシィに変な目付きで近づいてくる男どもを蹴散らしながら、オレもグラスに手をかけた。




――…
―…



「…で、結局こうなるのかよ」



酔いつぶれたルーシィを背負いながらオレはなるべく振動がいかないように慎重に歩いていく。




「ププーン…」

「…お前も大変だな」



心配そうに見上げるプルーに苦笑して、にゃー、だのうー、だのと唸るルーシィを抱え直しながら月明かりに照らされた道をゆっくり歩く。


「…ん…」

「…こーやって大人しく寝てりゃ可愛いのに」



別に普段のルーシィが可愛くないってわけじゃないし、さっきのルーシィもやばいくらい可愛かったけど。



…ただ、他の奴らに見せる可愛さが許せないだけだ。


できれば可愛くなるのは俺の腕の中だけにしてほしい…だなんて、本当ちっぽけな独占欲。



「まだまだだな、俺も」



はぁ、と今日何度目になるかわからないため息を吐いて。


気持ち良さそうに俺の背中で眠るルーシィを見つめる。



本当は今すぐにでも連れ去って、俺のものにしてしまいたい…なんて言ったら、こいつはどんな顔をするんだろうか。


泣いて嫌がる?
それとも…



「グレ…イ…」

「あ、悪ぃ…起こしたか?」

「信じてるからね…」

「…っ」

「スー……」


吐息混じりのその声が、背中を伝って全身に響く。


全く…このお姫様は…



「…敵わないな」



でも全部お前の思い通りになるのは癪だから。


…これぐらいの悪戯は許されるだろ?


「ププーン…?」

「シー…」



不思議そうに見上げるプルーに人差し指を口に当てて。



そのままそっとルーシィの首筋に口づけた。



「んぅ…」

「…あんまり他の男に近づくなよ」



首筋に咲いた紅い花は"俺のもの"だという証。





「……好きだ」




そう耳許で囁けば、ほんの少しだけルーシィの口元が緩んだ気がした。




クルクマ

(ちょ、何よこれ!?グレイ!?)

(…さあ、知らねぇな?)





クルクマ:あなたの姿に酔いしれる

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