第一弾<book>

□ミモザアカシア【ゆん様】
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ふわり、と鼻先に差し出された卵色。
目の前に広がる花の香りに瞳を見開いて。
こくん、と口の中のサラダを飲み込んだ。
首を傾げる間もなく疑問を零せば、ふにゃり、と彼が笑う。

「ルーシィの髪のように綺麗だと思わない?」

少しも動じない笑みのまま、当然のように隣へと座って。
繊細な手付きで花を撫でた。

「…ま、た勝手に出てきて」

漸く出てきた言葉は呆れたように装って。
似つかわしくない花の色とふざけたように振舞うその仕草を見比べる。

「…ロ、キ?」

元気ないね、なんて覗き込んで首を傾げれば。
一瞬だけ、驚いたように瞳が見開かれて。
すぐに目を細めた。

「ねぇ、ルーシィ」

不意に包み込まれた両手。
近付いた途端に漂う爽やかな香り。
花の香りと混ざって優しい声が安心させるように響く。

「僕は、君が…―――っ」

言い聞かせるように紡がれた言葉は途中で遮られた。
ゴン、と振り下ろされた拳。
視線を上げれば、不機嫌そうな半裸の男。

「ロキ、遊ぶなよ」
「…ひどいなぁ、僕は真剣なのに」

ゆっくりと瞬きひとつ。
ふにゃり、と笑顔を崩さないロキと溜息交じりに呆れ顔のグレイ。
交互に視線を泳がせていると、グレイがロキの懐から花束をひょい、と持ち上げた。
そのままばさり、と手元へ投げられる。

「へ?」

きょとん、と目を丸くして言葉を選んでいると、隣でロキがくすり、と苦笑した。

「そんな渡し方じゃ伝わらないよ?」
「うるせぇよ」

照れたように頬を少しだけ染めて。
無愛想に言い返すグレイへ溜息ひとつ。

「ねぇ、ルーシィ」

いつの間にか脱ぎ落とされたシャツを拾い上げて。
流れるようにグレイへと手渡しながらロキはにっこりと微笑んだ。

「僕は君が、大切なんだ」

誰よりもね、と念を押すように囁いて。
光の粒子に消えていった。
その姿を呆然と見送って。
包み込まれた両手を確かめるように引き寄せる。
薄らと朱を彩るその表情を横目に。
グレイは小さく舌打ちをして一言。

「っとに…やりずれぇ」


fin.
***
*優雅・友情・秘密の愛.

フランス名は「ミモザ」。
「ミモザサラダ」は、上に散らした卵の黄身を、この花に見立てたもの。
フランス・プロバンス地方では、2月中旬頃に春の到来を祝う「ミモザ祭り」が行われる。
イタリアでは、3月8日の「女性の日」に、お世話になった女性にミモザの花を贈る習慣がある。
「銀葉アカシア」とも呼ばれ、白い花を咲かせる「ニセアカシア」とは別種。
成長が早いマメ科の植物。

黄色のふんわりした花は、陽気な気分にさせてくれる。
スパークリングワインとオレンジジュースをミックスしたカクテル「ミモザ」、黄身の裏ごしを野菜に振りかけた「ミモザサラダ」など、この花に因んだ料理やドリンクも御馴染。

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