百倉

□夢物語
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 毎夜、夢に出てくるあの人の姿を探している。
 囚われの身の私に唯一、自由を教えてくれるあの人を。


*


 マグノリア王国、東端の石垣の城は、今日も今日とて閑散としている。只でさえ大きな塀に覆われた城の周りには、森の木々が鬱蒼と迫り、今にも埋もれてしまいそうだ。城下町の人は勿論、城に雇われている使用人たちですら、城の存在を不気味に思う程だった。城はいつしか『蒼い城』と呼ばれるようになり、その風貌によって気味悪がられながら、ひっそりと領地を守っていた。

 ある年、城に玉のような子供が生まれた。城の風貌には似つかわしくない、輝かしい髪と丸い大きな瞳とを持って生れた子供は、城ですくすくと育っていった。そして17年後、子供は、それはそれは美しい姫へと成長していった。噂を聞きつけた隣国の王子や、遠くの有名な国の王からも、是非一目でも姫に会いたいと、パーティーへの招待状と共に、催促の手紙と、時折プレゼントが送られてくるようになった。どれも喜ばしいもののはずだったが、姫の心は浮き立つ事は無かった。誘いや申し出を断られたものの中には、姫を『蒼い城の黄金人形』と皮肉を零す者もいた。
 姫は何時も独りだった。兄弟姉妹も無く、基より外界との交流のあまりない『蒼い城』の中での生活は、殆ど幽閉に近いものだった。礼儀作法を身につける以外は外へ出る事は許されず、唯一の理解者であった母親こと王妃をも幼い頃に亡くしてからは、更に引き籠る様になってしまった。王である国王には会わせてもらえず、城を気味悪がる使用人たちや家臣も、姫を常に遠ざけていた。
 そうした環境の中に育った姫は、姿こそ美しいが、喜怒哀楽を持たない、本当に、人形の様に空虚な人間へと成長していた。楽しみと言えば読書のみで、後は夢の世界へと浸ることくらいだった。本よりもリアルに広がる世界と予測の着かない夢物語は、年頃である姫をすっかり虜にしてしまっていたのだ。

「今日は、一体どんな夢を見るのかしら。」

読みかけの本にしおりを挟んで、枕元に置いてベッドへと潜る。いつも通りの事だ。こうして横になって目を瞑ってしまえば、煩わしさすら感じるこの世界と、少しの間だけ離れていられるのだ。姫は目を閉じ、夢の世界へと旅立っていった。
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