沙羅

□届く想い
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【届く想い】



いつものように、勝手に入り込んだ部屋の主はやっぱりいつものように姿はなくて。
バスルームから聞こえる水音と話し声に、またプルーも一緒かと苦笑う。



ソファーに座って視界の端に見えた机には山積みにされた紙。
首を傾げながら覗き込めば、いつだったか大騒ぎの原因になった彼女の母への手紙と、新たに加えられた父への手紙だった。


遠い昔に亡くなったと聞いたルーシィのおふくろさん。
そして眠っていた7年の間に亡くなっていた親父さん。


一体どんな想いが詰め込まれているんだろう。

そんなことを考えながら手紙の山を眺めていたら、ルーシィの叫び声が響いた。



「不法侵入ー!」
「よう」


片手を上げて見せれば、わざとらしくおっきな溜め息を吐いてから部屋へと駆け込んだ。

そんなルーシィに喉の奥で笑っていれば、足下で脛をペシペシと叩かれた。



「おまえ、なんでこんな萎れてても平気なわけ?」


抱き上げれば嬉しそうに声を出すプルーも、風呂上がりの今は可愛さ半減のしわしわな状態だ。




「あーー!?」
「うお!?」



突然の叫び声に驚いていれば、ルーシィが部屋から真っ直ぐ机に走って行った。


「……見た?」
「宛名だけな」


手紙を隠そうと慌てるルーシィを手招きして呼び寄せる。
訝しげな顔をしてたけど、今更だろと付け加えれば苦笑いで頷いてソファーに落ち着いた。



「バカみたいと思ったでしょ」



机に視線を向けて笑うルーシィは、笑ってるのに泣いてるように見えて。



「思わねぇよ」
「だってもう届けることも、読んでもらうことも出来ないってわかってるんだよ?」
「それでも思わねぇ」
「なんで…」


そこまで言ったルーシィの肩を掴んで無理やり腕の中に閉じ込めた。



「おまえの大好きがたくさん詰まった手紙、誰がそんなふうに思うんだよ」


ピクリと揺れた肩はしだいに小刻みに震え出す。
宥めるように緩く背中を撫でながら俺は言葉を続けた。



「ルーシィが大好きなんだって詰め込んだんだ。その想いだけは俺は届いてると思ってる」


声も出さずに小さくルーシィが頷いた。


「それに、今のおまえにはたくさんの家族がいるだろ?」
「……家族?」
「ギルドのみんな」
「家族…」
「俺もナツもエルザもミラちゃんも。ジジィやカナもいる」
「……うん」


背中を撫でていた腕を伸ばしてそのまま緩く抱き締める。
驚いたのか、軽く身動ぎしたあとルーシィが顔を上げた。

濡れた目元に顔を寄せてキスで涙を拭ってやれば、その目を瞬かせる。


「違うな」
「な、にが?」
「俺のなりたい家族」


不思議そうにこてんと首を傾げたルーシィのおでこにもキスを落として、耳元で小さく囁く。



「好きだって言ったら、どうする?」
「なっ!?」
「親とか兄弟とか、そういう家族になりたいんじゃねぇんだよ」


離れようと胸を押してくる腕ごと抱き締め直して、ルーシィの髪に頬を埋める。



「なぁ。好きだって言ったら、どうする?」


もう一度繰り返した俺の言葉に返ってきたのは、おずおずと背中に回された細い腕だった。


「それは俺の良いようにとってもいいのか?」
「……好きにとればいいじゃない」



髪にキスを落として好きだと告げれば、小さく頷いた拍子に真っ赤に染まったルーシィの耳が見えた。




《台詞:好きだって言ったら、どうする?》
《場面:涙を拭うキス》

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