さまーさいだー

□言ってあげる
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辞書を引いたら、男女が待ち合わせることを『デート』と総称するらしい。
待ち合わせ場所へと走りながら、ルーシィは記憶を探っていた。一回目は、ギルドの前で。……まぁ内容は仕事だったけれど、デートの定義があれならば待ち合わせたし。二回目は、時計塔の前で。……まぁナツとかハッピーとかエルザとかもいたけど。一応男女だし。
兎にも角にも、三度目の正直。なんて意気込んで。目指すは喫茶店の前、今日はそこで待ち合わせだ。グレイと、ふたりで。三度目の、デートだ。





言ってあげる





カップルで賑わう待ち合わせ場所の喫茶店の前。何回も考えて考えて考え抜いた服を息と一緒に整えた。ふう、っと深呼吸の要領でひとつ息を吐き出したら、待ち合わせ相手である意中の、グレイの姿が目に入って。
こんなに人がいるのに、すぐに見つけてしまった自分が何故だかくやしく思えた。

「悪い、待たせたな」
「ううん、今来た所だし」

お決まりの台詞に、思わず赤面しそうになった。なんか、これはまるでカップルだ。ただでさえ喫茶店の周りはカップルで溢れていて。周りからみたら、私たちはきっとそれに見えているはずで。
「んじゃ、行くか?姫さん」

グレイの言葉にはっと我に返って彼を見上げれば、そこには眩しいくらいの笑顔があって。

「ルーシィ、」
「あ、え、ご、ごめん!!行こいこ!!」

あぁ、あたしってば今日一日頑張れるのか。

結果だけ言うならば、ルーシィはなんにも頑張れず、マグノリアはもう夕暮れ時となっていた。三度目のデートで、三度目の正直で、少しは進展しようと思っていたのに。少しは気持ちを伝えようと思っていたのに。それが出来なくても、せめて次のデートの約束くらいは、と思っていたのに。思って、いたのに。

「んじゃ、もうそろそろ帰るか」

思わずその言葉に体を強ばらせた。固まる。あぁ、もう本当にあたしは馬鹿だ。

「ルーシィ?」

覗きこまれたそのあまりに優しい声と顔に、あまりの自分の不甲斐なさと意気地のなさに若干涙腺が緩む。あたしがグレイを好きでいる資格なんか、実はないのかもしれない。グレイには、ジュビアがいるし。ジュビアが……。ジュビアとグレイが、デート。デート。デー……。

「いや」
「え?」
「あたし以外とデートしたらやだ」

思考に口が動いていた事に気づくのに有した時間は多分三秒程度。
グレイの口を間抜けにぽかんと開けた姿がそこにはあって。あたし、なんてこと。

「わわ、忘れて!!あたしってば何言ってるんだろ!!」

思わず真っ赤になった顔を両手で隠したら、その手をグレイに握られて、強い力で広げられる。

「もう一回、言えよ」

さっきとは全然違った真剣な顔に、口が動いていた。

「あたし以外と、デートしちゃ、や、だ……」

震える。目があわせられない。恥ずかしい。なんでこうなってしまったんだ。ちらりと横目でグレイを盗みみれば夕暮れの日を背中に背負ったグレイの口角がにやりという具合につり上がり。

「へぇ、…それで?」

もう、逃げられない。
だから、しょうがないから。
言ってあげる。



オワリ

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