ナギハラ ミズキ

□好きで、好きで、たまらなく
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そこに居れば、必ず目で追うようになったのは、いつからだったか。

雑多に音が混じる中で、彼女の声にだけは、すぐ気付く。


「――グレイ!」


名前を呼ばれるだけで、
目の前まで駆け寄って来るだけで、
屈託のない笑顔を向けてくれるだけで――

抱き締めたくて、口付けたくて、仕方がなくなる。


最初から、外見は文句なんかないくらい好みではあったけれど。

――ここまで嵌まるとは、思っていなかった。


「どうした? ルーシィ」

グレイがギルドに来るなり、座っていたカウンター席から立ち上がって近付いて来たルーシィの頭を、いつも通りに手のひらでゆるく撫でる。

まだ、言葉で確かめられては、いないけれど。
きっと誰より一番近いところまで許されてると感じる距離は、自惚れなんかじゃなくて。

現に、グレイが金の髪へ触れたのと同じタイミングで、彼女からも手が伸びて、グレイのシャツをつかんでいた。

「あの、ね、今日……、仕事、入ってる?」
「いや?」

窺う瞳と口調で、すぐ下から見上げてきた彼女に短く返事する。

『最強』チームで仕事へ行くようになってからも、たまに一人で仕事を取ってはいたが、このところは特にめぼしい仕事もなく。
そのチームで行くのも、エルザが一昨日から遠出してるからと、今日は予定になかったはずで。

空いてる事をグレイが答えた途端、明らかに安堵した笑みが零された。
よかった、――彼女の口が、そう動いたようにも見えた。

「……ええと、その……、小説、書き上がったんだ、けど、」

シャツをつかんでいた手が引っ込んで、代わりにそれは彼女自身の胸元で握り締められ、視線を下げながらルーシィが言葉を続ける。

「へえ? 早かったな。三日前はまだ話の山場に入る前だったろ」

「う、ん。昨日、気分が乗ってたから……全部、書いちゃって」

度々ルーシィの部屋へと上がり込んでは書きかけの話を読ませてもらってた、その最後に見た内容を思い出して口にすれば、返された声音はどこか嬉しそうだった。

嬉しそう――というか、何かを期待している声、か。

書き上がったものを読ませてもらった事は、すでに何度かある。
その度に交わすやりとりも、いつのまにか当たり前になっていて。

だから、離してた手を、もう一度ルーシィの頭へ伸ばした。

褒めるみたいに、労うみたいに、金の髪をくしゃりと撫でる。

「一番に読むのは、またレビィか?」

「うん。今日、持って来てて。さっき、読んでもらったんだ」

 
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