遊代
□プライド
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「あーもう!なんでこんなに降るのよー!!!」
あたしは洞窟の中から滝のように降っている外に向かって叫ぶ。が、当然そんなことでこの豪雨が止むわけは無かった。
「おい、ルーシィ。反響するから喋んな。」
「うぅ…グレイは落ち着いてるね…」
「別に急ぐことでもねーだろ?」
「ダメよ、エルザやナツたちが待ってるかもしれないでしょ?」
「むしろ、あいつらだけで仕事クリアしてオレたちだけ報酬無しかもしんねぇぞ?」
「う…!それはあり得る…」
あたしはガックリと項垂れる。
こんなことになったのも数時間前に遡る。
今日の仕事は大河を渡ったところにある村からの依頼であった。そこに向かう途中の大河を船で渡ることになったのだが残念ながら、小さな船が一艘しか借りれなかった。順番を決め、最初がナツ、エルザ、ハッピー。最後にあたしとグレイで渡ることになったのだが、途中天気が悪くなり始め、終いには雨が降り始めてしまい、エルザたちが渡り終えた直後に河が増水し始めあっという間に激流になった。
ハッピーが雨の中こちらに飛んでくると「オイラたちは先に言ってるから河が激流が収まったら、追ってきて」っと言って飛んで行ってしまう。
その言葉にあたしとグレイが顔を見合わせているとどんどん雨が強く降り始めてきて近くにあった、洞窟に駆け込んだ。
そこから今に至る。
「…雨のせいで髪もビチャビチャになっちゃったし…服も…へっくちゅ」
「可愛いクシャミすんだな。」
「う、うるさい!」
あたしの頬はカァっと熱くなる。
グレイはいつも見たいに冷静な表情で…って
「グレイ…なんで目を合わせようとしないの?」
「…!そっそんなことねぇよ。」
いや、ある。
グレイの目線はあたしとは逆で明後日の方を見ている。
びみょーにさっき座っていた位置から遠くなっている…気がする。
「ねぇ、あんたなんかおかしくない?」
「うぉ!?い、いきなり近づいてくんじゃねぇ!!?」
「どうしてよ?」
いつもギルドにいたときはもうちょっと近くで話すこともあった、今の距離はそこまで近い部類にはならないと思う。
「いいから!今は近づくな!いいな!?」
「むーわかったわよ!」
あたしはするすると元いた位置に戻ると急に会話が途切れる。
やけに雨音が洞窟内に響く。アレだけの豪雨で聞こえないはず無いのだが、グレイと話しているときはそこまで気にならなかったはずだ。
「……。」
「…………。」
「ねぇ、グレイ。あんた何かおかしくない?」
「………そんなことねぇよ。」
「今、間があったじゃない。」
再び沈黙。
あたしはぷぅっと頬を膨らませてグレイを睨む。
しかしグレイは目線を合わせようとはしなかった。それが癇に障ったのかどうかはわからない。
あたしは一つの行動を起こす。
「ていやっ!」
「うぉ!?」
着ていた上着を丸めて投げつけた。
水に濡れたそれはべちゃっと音を立ててグレイの頭にクリティカルヒット。
一瞬驚いたグレイだが、あたしの格好を見てギョッとする。
「お、お前!何脱いでんだよ!?」
「よく考えたら濡れた服をずっときてる方が体冷えちゃうしね。」
「だからって脱いでオレに投げつけるな!これ着てろ!!」
「わっぷ!」
そう言って投げつけられたのはグレイの上着。
「グレイのだって濡れて……なんであんたのだけ乾いてるの?」
「一足先に脱いで干しといた。」
くいっと親指を奥に向けるとそこには氷で作られた物干し竿がかけられていた。
「…先に言ってくれて良かったと思う。」
「…悪りぃ気が散ってた。」
あたしはゴソゴソとグレイの服を着るとダボダボな上着にクスっと笑った。
「あ?どうしたんだよ。」
「いやー、なんとなくねー。」
「あん?」
グレイが怪訝な様子で眉を顰める。
あたしは別に隠す必要もないかなーっと思い、素直に考えていたことを口にする。
「ただ、グレイの匂いがするなーって。」
「ぶっ!」
グレイが盛大に吹き出す。
「ど、どうしたの!?」
「なんでもねぇ!何でもねぇから寝ろ!どうせ今日中に雨止まねぇから寝ろ!体力温存するために寝ろ!!」
あたしに話す間を与えないようなマシンガントークで『寝ろ』っと言ってくるグレイに気圧され、あたしは頷くことしか出来なかった。