ゆきじ

昇って沈んで、また昇って
1ページ/2ページ


濃いオレンジ色の光が染める道を歩く。
特別急ぐでもなくゆっくりとした歩調は、けれどその心中を現すように上機嫌に、まるでステップを踏んでいるようだ。
足を一歩踏み出す度にさらりとした金糸が夕暮れの光を反射しながら揺れる。

「そんなに嬉しいのか」
「嬉しいに決まってるじゃない」

後ろから掛けられた声にくるりと振り向いて答えたルーシィの手には紙袋が1つ。
大事に両手で抱えられたそれにはこの近くに店を構えた本屋の名が印されている。

「ずっと欲しかったんだもの、この本」
「だからって仕事終わって直行で買いに来なくとも良かったんじゃないか?」
「誰かに買われちゃうかもしれないって思ったら、早く欲しくなっちゃって」

隣へ並んだグレイに肩を竦めて歩みを再開させる。
仕事を終えた帰り道、本来ならギルドへ戻って報告を済ませる所をわざわざ遠回りして書店へと寄った。
目的は一冊の本、その本を買うために報酬の減額が最早恒例になりつつあるいつものチームではなく、他二人よりは破壊癖の少ないグレイと仕事に出掛けたのだ。

「付き合ってくれてありがと、グレイ」
「これくらい、どうって事ねぇよ」

頭の後ろで腕を組み、悠然と笑うグレイにぱちりと目を瞬かせる。

「グレイ」
「あ?」
「…服」

いつの間にか上半身に纏っていた服が忽然と無くなっていた。
帰路の列車に乗ってマグノリアに着くまでは着ていたから、歩いている内に脱いだのか。
器用と言って良いのか悪いのか、知らない内に服を脱いでしまうこの妙な癖は脱いだ本人でさえ気付かないのだから手に負えない。

「来た道戻って服探す?」
「いや、面倒だからいい」
「面倒って…」

どこに落としたのかも分かんねぇし、とぼやくグレイに小さく嘆息する。
彼のこの癖自体には慣れても、異性の裸は何時まで経っても見慣れることがない。
グレイが良くてもこちらが目のやり場に困る。

「ちょっと待って今バルゴに服持ってきて…ん?」

熱を持ち始めた頬を悟られないよう視線を外した先、人だかりを目にして立ち止まる。
遠目に見て分かるのは、数十人程の人の姿と聞こえてくる歓声。

「なにかしら、あそこって確か…」
「教会だな、ミサでもやってんのか?」
「ミサって静かにするものでしょ?」

歓声が挙がることなんてあるのかと口にしようとして、もしやとルーシィは走り出した。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ