レイピア

□それは、きっと君だったから
1ページ/1ページ

誰にも知られずに、密かに育った想いは、誰かに知られることがなければ、
『なかったコト』に、なるのだろうか・・・―――?


誰もいない、公園のベンチに腰掛ける。
「少し、早く来過ぎたか・・・。」
時は真夜中。普段占領して遊んでいる子供たちも、今や布団の中だろう。
ふぅ、と息を吐く。先程から心臓がうるさい。
気持ちに決着をつけるため、彼女をここに呼び出した。

「ちょっと、話があるんだ。今日の夜、公園に来てくれないか。」

一人で本を読んでいた彼女にそう告げれば、不思議そうに首を傾げたが、頷いてくれた。
ずっと前から、心に秘めていた想い。
いつからだったかは、もうわからない。
初めて逢った時から?
チームを組んだ時から?
そんな事考えるだけ無駄だ。それほどまでに、わからなくなっていた。考えれば考えるほど、彼女への想いは大きくなる一方だ。
夢のなかだろうと、現実だろうと、自分の心は奪われてしまう。
彼女に他の男が近付くと、無性に胸が痛む。彼女が笑えば、自分の中のなにかが喜ぶ。
自分はもう、この想いの名前を知っている。
彼女に、この想いを伝えたい。自分を、自分だけを見ていて欲しい。
そのために奇跡を願う。今はそれしか言えない。
(たくっ、情けねぇ・・。奇跡にかけるだけなんて・・。)
そう思う自分だっているけれど、どうしようもない。それだけしか方法がないのだから。

しばらくすると、誰かの足音が近付いてきた。
誰か、なんて確かめる必要はない。真夜中に公園に来る人間は、そう何人もいないだろう。
「ゴメン、グレイ。待たせちゃった?」
「いや、そんなに待ってねぇよ、ルーシィ。」
そう、と言いながら、ルーシィは隣に腰掛けた。
ルーシィが息を整えてる様子をみて、少しだけ嬉しく思う。自分のために、わざわざ走ってきてくれたのだと思うと、温かい気持ちになった。
先程買ったミルクティーを差し出せば、ありがとうと受け取り、一口飲んだ。
「で、話って何?」
「あぁ・・。」
「別にギルドにいた時に話してくれても良かったのに。あの時本読んでたけど、そこまで集中してたわけじゃないし。」
「いや、ギルドじゃ誰かに聞かれるかもしんねぇし。誰かに話遮られても困るんだよ。」
「ふーん。」
そう言って、ルーシィはまたミルクティーを一口飲む。
「グレイがそんな話をするなんて珍しいわね。なにか悩み事?」
「あぁ、無茶苦茶悩んでる。最近そのことばっかり悩んでんだ。」
ルーシィは途端に、楽しそうに笑った。
「あら、それはもしかして、恋のご相談では?グレイ先輩?」
「先輩ってお前・・・。間違っちゃいないけどよ・・。」
ふふ、と、楽しそうに笑うルーシィの表情は、次の瞬間に寂しそうなそれにかわった。
「ルーシィ?」
「相手・・、なんか聞くまでもないか。」
「は!?」
まさか、バレてた!?と慌てふためくグレイとは対照的に、ルーシィは落ち着いた表情で、缶を持ち直す。
「で、私に聞きたいのは?告白の仕方?」
「いや、そうじゃなくてだな・・。」
「告白するなら、ちゃんと自分の本音を言ってあげなきゃ。取られちゃったって知らないから。」
「え?」
「私から言えるのはこれだけよ。じゃあね。」
ミルクティーを一気に飲み干し、早々に立ち去ろうとするルーシィの手を掴んで引き寄せる。
「グレイ・・?」
「ちょっと待て。お前何言ってんだ。」
「何って・・。告白するんでしょ?私のことなんてほっといて、行ってくれば?」
「行くって、どこに?」
「っ・・、ジュビアの所に決まってんでしょ!!」
苛立たしそうにルーシィは叫ぶ。
そこでようやくグレイは理解できた。
「ルーシィ・・。」
「だから、決心が揺らがない内に・・!」
「ちがう。」
「・・・え?」
ルーシィは訝しげにグレイを見つめなおす。
「ちがうって、何が?」
「お前の考えてることがだよ。」
「グレイ・・?」

深く、息を吸い込む。

「好きだ。」
「・・・え?」
「俺が好きなのは、お前だよ。ルーシィ。」
「う、そだ・・。」
ルーシィは声を震わせて呟く。
「嘘じゃねぇ。嘘なわけあるか。」
「うそだぁ・・。」
ルーシィは顔を真っ赤にさせて座り込んでしまった。
「お、おい、ルーシィ。」
グレイも釣られてしゃがみこむ。
「・・・けど・・。」
「は?」
ルーシィがかなり小さな言葉をこぼしたが、聞き取れず、聞き返すと、先程よりも大きく、しかし小さい声がグレイの鼓膜を震わせた。
「嫌われてはないと、思ってたけど・・、仕事行っても足引っ張るし、迷惑かけちゃうし、好きでいてほしいとは思ったけど、こんなに・・。」
2つの影が、
「こんなに、嬉しいなんて、嘘みたい・・。」
1つになる。
「グレイ・・。」
「嘘じゃない。何回も言わせんな。それに、お前が思ってるような『迷惑』なんて、俺達は何一つ感じちゃあいねえよ。それに。」

「そんなお前だから、俺は好きになったんだ。」

ルーシィの手が、グレイの服を掴む。
「信じて、いいの?私の、感違いじゃないよね?」
「当たり前だ。」
再び影が離れ、
「絶対、大事にする。」
「うん。」
1つとなった。

――たとえ、自分の想いが、誰かに知られることがなくとも、その想いを消すことなんて、誰にも出来ない。自分の知らない、自分の中で、ずっと息づいているのだから。君と出逢って、君を好きになって生まれたモノ。その存在が在ったことを、時と、自分自身が、知っている・・―――。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ